研究課題/領域番号 |
20K13029
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
木本 幸憲 兵庫県立大学, 環境人間学部, 講師 (40828688)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アルタ語 / 社会言語学的状況 / 危機言語 / カシグラン・アグタ語 / イロカノ語 / カンカナウイ語 |
研究実績の概要 |
本年度は大きく以下の2点から研究を行った。 (i) まず、フィリピンで話されている少数言語、アルタ語(ISO-639-3: atz) が話されている状況に関する実態調査を行い、論文として発表をした(「『社会言語科学』所収論文)。そこでは、アルタ語が現在10人の母語話者によって話されているが、彼らやその子孫である若年層のコミュニティメンバーは、近隣の言語であるカシグラン・アグタ語にシフトしつつあることを述べた。さらに、その要因として、カシグラン・アグタ語母語話者との文化的近接性が深く関与しており、文化を失わずして言語がシフトしている状況がある。言語がなくなればその文化も失われるというのが、危機言語の議論でよく語られている。しかしこの言語を見る限りはそれは過度な単純化であることを議論した。
(ii) 言語が文化と直接的な関わりを持つというのは、一般には広く認識されている。しかし言語学的アプローチによって厳密に究明すると、その関係性を実証的に明らかにするのは難しい。しかし、フィリピンの言語の場合、特に動物、植物などの具体名詞から派生した動詞を見ると、彼ら特有の自然認識が反映されていることが分かる。本年は、特に上で述べたアルタ語、カシグラン・アグタ語のほか、カンカナウイ語、イロカノ語(いずれもフィリピン北部で話されている言語)の4言語を対照して、言語間の差異と共通性を検証した。4言語いずれも類似したパターンを示すが、狩猟採集文化であるアルタ、カシグラン・アグタの場合、動物名詞が「...を狩る」の意味になるものが多いことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症が国際的に蔓延したため、実地調査が不可欠なこの研究でも、フィリピンでのフィールド調査を行うことはできなかった。しかしながら、過去に蓄積したデータや、イロカノ語、カンカナウイ語などの過去の研究を参照して、初年度の研究成果としては十分な水準の研究を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の点をより深く研究することで、新たな知見を提供することが出来る。 (i) アルタ語はまだ研究途上の言語であるため、文法記述が少ない。アルタ語の個別的記述を推進することで、対照研究への足がかりをつける。 (ii) イロカノ語、カンカナウイ語については、信頼に足る辞書があるため、その辞書記述をベースにして、具体名詞からどのような動詞の意味が派生されるかについて研究を進める。 (iii) 対象言語を広げる。特に、タガログ語、セブアノ語などフィリピンの北部以外で話されている言語で、豊富な記述がある言語に対象言語を広げて比較研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症蔓延のため、海外への渡航が不可能になったため。感染状況を考慮した上で、支出費目を決定する。
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