研究課題/領域番号 |
20K13029
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
木本 幸憲 兵庫県立大学, 環境人間学部, 講師 (40828688)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 名詞派生動詞 / 危機言語 / 言語と文化 |
研究実績の概要 |
本年度の研究は以下の2点にまとめられる。 まず、一つ目に、フィールド調査による動詞語彙の研究を前年度に引き続いて行った。2022年8月から9月にかけて、フィリピンのキリノ州に赴いた。そこで、その州で話されているアルタ語の語彙収集を行った。手順としては、Headland and Headland (1974) に収録されている、カシグラン・アグタ語の語彙を、アルタ語で聞いて、その語が取る接辞の可能性を聞き取る作業を行った。また、それと同時に談話資料も収集し、書き起こし作業を行った。以上の結果は、2022年10月8日に、フィリピンのUniversity of Santo Thomasで行われたウェビナー“Grammars of Philippine languages”にて、Verbal morphology and voice phenomena in Artaというタイトルで招待講演を行った。
また、今年度は、危機言語に関する社会言語学的調査・考察を行った。上述のフィールド調査にて、2012年度から行っているアルタ語の社会言語学的調査(話者数、流暢性の調査)を行った。その調査をもとにして、これまで語られてきた危機言語にはその社会的背景から二つのタイプがあることを明らかにした。国民国家による国語・公用語の影響を受けて言語シフトが発生したケースと、多言語社会の中で相対的に話者数の多い言語に言語シフトが発生したケースである。この二つのケースでは、種々の異なった特徴が見られる。このことは、「危機言語をめぐるディスコースと話者コミュニティからみた言語シフト」というタイトルで「ひと・ことば研究会」で発表したほか、国立清華大学(台湾)でのゲストレクチャー(Endangered Languages and Language Documentation)にて発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、1ヶ月にわたる言語調査において、十分なデータを収集することが出来た。話者の都合上、途中で切り上げる必要のある状況もあったが、順調に調査・研究を行うことができた。フィリピンのネグリート言語の文化的特徴を語彙の面(意味・形態論)から明らかにするという点では、順調に進んでいると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、以下の2点の研究を中心に行う。 名詞、とくに動植物・無生物などの自然物、道具などの人工物など具体的な意味を持つ名詞を派生させてできる動詞をより集中的に収集する。そしてそれが、どのような派生接辞をとるか、その結果どのような意味を生み出すことができるか、元の名詞はどのような意味的な特徴を持つか、そして全体としてできる文は、どのような文法的特徴を持つかについて引き続き研究を進める。 また、今年度はアルタ語を中心に研究を行ったが、他のネグリート言語との比較研究を行っていく。特に近隣で話されているカシグラン・アグタ語の語彙の収集と文法調査を行っていく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、予定されたフィールド調査が行うことが出来たものの、1年目と2年目で行うはずであったフィールド調査の分の予算が、次年度使用額として生じている。来年度、これらの分のフィールド調査も計画に組み込んで、研究を行っていく。
|