本研究は日本語とフランス語において、自他を指し示す行為がどのように発話者の外界認知に結びつき、コミュニケーションの場で発話者の心的態度を伝達するストラテジーとしてどのように働いているのかという問いを通して、日仏語の質的な差異と類似性を明らかにすることを目的としている。 2023年度はフランス語で豊富に存在する呼称表現について日本語との対照研究を進めた。フランスのテレビドラマをコーパスとし、使用される呼称表現の種類、頻度、またその効果について分析し、これらが日本語字幕にどのように反映されるのかを検討した。その結果、日本語では終助詞が発話の伝達機能、モダリティ機能において、フランス語の呼称表現と類似した性質を持っているのではないかという仮説を提示した。本研究成果は東京外国語大学の論集に「呼びかけ語のコミュニケーションにおける機能ー日仏対照の観点からー」という題目で研究論文として発表した。 このほか、2021年度より取り組んでいる日本語の人称表現における複数性についても研究を進めることができた。これまでは複数性を表す畳語名詞に焦点を当てていたが、複数を示す接尾辞についてもその意味や用法、学習者の誤用分析を進めた。本研究成果は8月にベルギーで行われたEuropean Association for Japanese Studiesの国際集会にてPlurality in Personal Expressions and Speakers’Subjectivityという題目で口頭発表を行った。人称の複数性については今後も研究を進め、日本語教育現場への具体的な提言を目指したい。
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