研究課題/領域番号 |
20K13032
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研究機関 | 国士舘大学 |
研究代表者 |
八木 堅二 国士舘大学, 政経学部, 准教授 (60771102)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 中国語 / 方言 / 言語地理学 |
研究実績の概要 |
本研究は言語地理学と臨地調査を主な手法とし、中国全土(中国語以外の周辺言語を含む場合もある)を対象とした言語地図を作製し言語現象の分布を把握するとともに、複数のデータを統合し構造の変化を考察する。今年度も昨年に引き続き新型コロナウィルス蔓延の影響で中国に渡航することができなかったため、言語地理学的分析に重点を置いて研究を進め、次の二件の論文を発表した。 (一)「Stop Series in Sinitic」本論は声調等による相補分布を無視した歯茎閉鎖音および歯茎鼻音の中国語方言の語頭における分布状況を地図化する。歯茎閉鎖音の音声的個数は最も種類の多い方言では4種あり、長江中下流域では3種の方言が多くみられる。標準語をはじめとする大部分の方言では2種で、1種のみの方言も数か所に見られる。これらの子音体系の形成を論じる上で1種の方言の分布と4種の方言が比較的近くに分布する傾向がある点が注目される。 (二)「er音的分布 以中西部方言為主」本論は漢語方言におけるer音の分布と変遷について止摂字、日字およびその他の異なる中古音の来源字の地図から論じる。er音はr音性の語頭子音からの排除と韻母における保存という南北両地域の音韻特徴を兼ね備え、止摂字と日字の方言音形は類似の発展経路を辿る。止摂字は北方全域に分布を広げ、止摂字以外を来源とするer音の分布は主に長江型分布の範囲内に収まる。このことはer音が長江流域で生起・発展した可能性を示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウィルス蔓延の影響により、当初予定していた中国に渡航しての方言調査を行うことはできなかったが、言語地理学的研究に重点を移し、「Stop Series in Sinitic」(Studies in Asian and African Geolinguistics I:pp. 33-37)と「er音的分布 以中西部方言為主」(《亜非地理語言学研究》単刊 第一:pp. 167-184)の二本の研究論文を執筆することができた。
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今後の研究の推進方策 |
三年目となる次年度は、言語地理学的分析の一層の精緻化を目指すとともに、接尾辞の地図をはじめ語彙・文法等に関連するいくつかの項目の地図化を行う予定である。また、日本に滞在する話者を対象として中国語方言の予備的調査を行い、中国への渡航・調査が可能となれば臨地調査を行いたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により、中国に渡航しての方言調査ができなかったため、方言調査関係の渡航費等の予算が余った。次年度以降に使用する予定。
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