研究実績の概要 |
本研究は、「扁桃体のユーモア理解過程における役割は何か?」という学術的問いに対して、言語学、心理学、そして脳科学の知見を活用しながら解明する試みである。 第1の目的は、コトバの内容を何らかの基準に基づいて「面白い」と評することに対応しうるユーモア理解の言語理論の提案である。令和2年度は、コトバの意味づけ論(深谷&田中, 1996; 田中&深谷, 1998)を活用してその構築を進めた。第2の目的は、扁桃体の神経科学的なつながりや役割と前述の言語理論との関連づけの提案である。令和3年度は、その検討を進め、「ユーモア理解の「見いだし」理論」という表題で論文発表した。具体的には、扁桃体はポジティブ情動が関与するユーモア理解(Nakamura et al., 2018)とネガティブ情動が関与する皮肉理解(Uchiyama et al., 2012)のどちらにおいて賦活することが報告されているため、両者の共通点、すなわちヒトの生存と関連性がある何らかの事柄の「見いだし」をするという役割の重要性を指摘した。また、ポジティブ情動を生じる要としては、「「保護されている」という認識の枠組み」(Apter, 1992, 2007)の重要性についても指摘した。 第3の目的は、心理学的ないし脳科学的手法を通して、前述の言語理論の神経基盤の解明を目指すことである。ユーモアは皮肉からも生じうることに鑑み、令和3年度は、神経基盤の認知的側面と情動的側面の協働機制を検討し、「皮肉理解における文脈と口調の相互作用」という表題で論文発表した。具体的には、認知的側面(心の理論)と情動的側面(関連性)が顕著性ネットワーク(Menon & Uddin, 2010)を介して統合される可能性を示唆した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、本研究の第3の目的、すなわち心理学的ないし脳科学的手法を通して、コトバの内容を何らかの基準に基づいて「面白い」と評することに対応しうる言語理論の神経基盤の解明をさらに推進する。残された課題としては、「「保護されている」という認識の枠組み」(Apter, 1992, 2007)の神経基盤の解明が挙げられる。今後の研究の推進方策として、神経基盤に関するレビュー研究(Farkas et al., 2021)の知見も検討の手掛かりとして活用していく予定である。
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