研究実績の概要 |
本研究は、「扁桃体のユーモア理解過程における役割は何か?」という学術的問いに対して、言語学、心理学、そして脳科学の知見を活用しながら解明する試みである。 これまでに、第1の目的である、コトバの内容を何らかの基準に基づいて「面白い」と評することに対応しうるユーモア理解の言語理論の提案、および第2の目的である、扁桃体の神経科学的なつながりや役割と前述の言語理論との関連づけの提案を実施し、「ユーモア理解の「見いだし」理論」として令和3年度に論文発表をした。その骨子は、関連性の感知(Sander et al., 2003)と保護フレーム(Apter, 1992, 2007)がユーモア理解において重要な役割を果たすというもので、扁桃体は前者の重要な神経基盤と考えられている(Nakamura et al., 2018)のに対して後者の神経基盤は不明となっている。そこで令和4年度は、第3の目的である、心理学的ないし脳科学的手法を通して、前述の言語理論の神経基盤の解明を目指す一環として、保護フレームの神経基盤の解明に向けて、イメージングの先行研究に対する脳の座標情報に基づくメタ分析を実施し、側頭葉前部、尾状核、前帯状回などが候補となりうることが示唆された。また、ユーモア理解に関する行動データ(中村, 2009)の再解析を実施し、保護フレームと整合する主成分を抽出可能であることも示唆された。 すなわち、扁桃体の関連性の感知は「自分が有する幸福や属する種の幸福の維持に有意な影響を及ぼす」(Sander et al., 2003)事柄の見いだしであり、ともすれば自分にネガティブな影響を及ぼしうる事柄である。そして、保護フレーム(Apter, 1992, 2007)により自分がネガティブな影響から守られる際に、ユーモアが生じるという可能性が考えられる。そして、これらに関して学会や研究会で報告した。
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