研究課題/領域番号 |
20K13035
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
鈴木 陽子 明治学院大学, 教養教育センター, 講師 (10735848)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 使用基盤モデル / 語彙習得 / 動詞 / 使用頻度 / 構文 / コーパス / 話しことば |
研究実績の概要 |
本研究は、構文理論および使用基盤モデルに基づいて養育者と子どもの自然発話コーパスを分析することにより、子どもの語彙知識と構文知識の習得プロセスを理論的かつ実証的に探究することを目的としている。2020年度には、本研究が扱う問題の理論的背景を整理し、問題の所在を説明するため、関連図書やジャーナル論文を参照し、先行文献や理論的背景の整理を行った。自然発話のデータベースであるCHILDESを用いて、日本語と英語の親子談話における動詞の使用頻度を調査し、使用頻度のリストを作成した。さらに、日本語データを対象に、1歳から3歳の子どもと母親の自然発話データを用いて5対の自他対応動詞(「入る-入れる」「乗る-乗せる」「出る-出す」「壊れる-壊す」「開く-開ける」)の使用を分析した。それぞれの動詞について、初期に獲得される6つの形態素(「る」(非過去)、「た」(過去)、「て」(命令)、「ちゃう」(完成相)、「ない」(否定)、「ている」(継続相))と用いられる頻度を比較した結果、自動詞と他動詞の全体の使用頻度には有意差がみられなかったが、4つの形態素(「る」(非過去)、「た」(過去)、「ない」(否定)、「ている」(継続相))において自動詞の方が有意に高い頻度で使用されていた。この傾向は子どもと母親の双方にみられ、子どもの動詞使用が母親からの入力によって影響を受けていることが示唆される。自動詞と他動詞の使用頻度の相関係数が高いことから、自動詞が高い頻度で使用されれば、その対となる他動詞も高い頻度で使用される傾向があることを指摘した。さらに、英語の話しことばにおいて、英語話者と日本人英語学習者の動詞の使用を比較し、その違いについて論文としてまとめ発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画に沿って先行研究や理論的背景の整理を行い、日本語と英語の親子談話における動詞の使用について調査を進めた。日本語の動詞について、動詞が生起する構文の分布を分析し、個々の動詞が言語形式としては同じ種類の動詞形を持つにも関わらず、実際の言語使用においては特定の構文に依拠していることを明らかにした。しかし、統計的手法を用いて使用頻度における非対称性を示すことはできたものの、結果の考察が不十分であるため、成果の発表には至っていない。子どもの動詞および構文の発達過程の記述を行い、考察を深める必要がある。また、英語の構文の分析には着手できていないため、引き続きデータのコーディングと分析、考察を行う。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度には、2020年度に対象とした動詞形以外の使用分布や3歳以降の言語使用の特徴を検討し、自他対応動詞の習得プロセスを明らかにしていく。自然発話での構文の使用に非対称性が認められるならば、コミュニケーション上の伝達意図と密接に関わる構文知識を子どもは早い段階で習得できていると考えて良いのか、その際、構文の習得が個別の語彙の習得とどのように関連していると考えられるのか、これらの問いについてさらに考察を行う。さらに、英語の構文の分析を進め、日本語の動詞との違いについて分析を行う予定である。得られた研究成果を発表するため、論文の執筆を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定通り語彙知識と構文知識の習得プロセスについて分析と考察を進めていたが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い国内・国際学会が中止や延期、オンラインでの実施となり、旅費が当初の予定ほどにはかからなかった。2021年度には、成果を論文としてまとめるにあたり必要となる書籍、資料のコピー、その他消耗品費等に研究費を使用する予定である。
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