研究実績の概要 |
自然言語には様々な照応現象が観察され、その背後にある派生や制約は、生得的な言語機能を直接的に反映しているという見通しから、言語知識に関する研究がこれまで行われてきた。本研究は、特に「so照応」(英語の例:Mary kissed Bill, and Nancy did so too)(日本語の例:メアリーがビルにキスしたら、ナンシーもそうした)に焦点を当て、「なぜ照応現象は音声的に不完全にも関わらず、母語話者は一様の解釈可能性及び統語的特性を示すのか」という問題に取り組んだ。具体的には、so照応が示す抜き出しの可能性に関するパターンを比較統語論の見地から言語横断的に記述検討すると共に、現在の生成文法理論の枠組みにおいて当該のパターンを説明する理論を構築し、理論言語学の中心的課題の一つである「ヒトの言語知識の解明」に貢献することを目指した。2020年度は英語の節を先行詞にとるso照応に焦点を当て、否定辞繰り上げ構文との相互作用を観察する中で、先行研究において議論のある否定辞繰り上げ構文の理論的分析(統語的分析または意味的・語用的分析)に関して、意味的・語用的分析に対する新たな経験的証拠を提示することができた。2021年度は日本語の節を先行詞にとるso照応に焦点を当て、Kroll (2019)によって観察された英語のスルーシング構文における極性交替現象が、日本語の当該のso照応でも観察されることを指摘し、so照応と量化詞繰り上げ・否定極性項目などの相互作用に関する新たなデータを考察する中で、意味的・語用的分析に対して新たに経験的証拠を提示することができた。2022年度は上述した研究を推進しながら米国コネティカット大学を訪問した上で、Zeljko Boskovic教授とのアポイントメントを通し今後の研究方向性に関して議論を行った。
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