本年度はこれまで進めてきた以下3点の研究を進め,それぞれ研究論文として発表した。 (1)スタイルの認識を測るための聴解・読解テストの検証結果をまとめた。中上級以上の学習者16名に対し,スタイルの丁寧さを判断する聴解/読解テストを行った結果,学習者は丁寧さを表す表現形式の知識はあっても,母語話者ほどは重視はしていないことが示唆された。 (2)当初予定していた縦断調査を,規模を小さくした事例研究として実施した。これは,新規で来日した中国人上級学習者4名に対し,日本での数か月間の生活を通して,スタイルに対する気づきを逐一記録してもらったものである。4か月から半年間にわたる調査の結果,先行研究の結果と同様に,学習者はさまざまなコンテクストにおけるコミュニケーションを通して,スタイルについての認識と,母語話者による実際の使用との間のギャップに気づき,自分なりにこのギャップを埋めようと理解を図っていることが示された。 (3)母語話者間のデスマス形基調の雑談で用いられる非デスマス形について,その聞き手目当て性の弱さを利用した談話機能が果たされていることを発見した。11組の初対面二者間による雑談計290分を分析した結果,聞き手目当て性の弱い非デスマス形は,受け手の保有する情報に関する発話で用いられることにより,極力次のターンで受け手が何を言うべきかを制約せず,談話展開に非主導的に関与する機能を果たしていることがわかった。 以上が最終年度の研究実績であるが,学習者に対する縦断調査はサンプルが少なく,探索的に行ったものであるため,今後さらに同様のデータを収集し,学習者のスタイルに対する認識とその変容について,一般化および理論化を図っていく必要がある。
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