研究課題/領域番号 |
20K13146
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研究機関 | 敬和学園大学 |
研究代表者 |
主濱 祐二 敬和学園大学, 人文学部, 准教授 (20547715)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 動詞形態 / 従属節 / 補文標識 / 形式素性 / 定形・非定形 / 接続詞省略 |
研究実績の概要 |
熟達度が初中級の学習者に見られる外国語習得上の困難の一つに、動詞形態の習得が挙げられる。初年度は、節の統語特性が動詞形態の習得の容易さに影響するという予測のもと、目下L2習得研究において主要な2種類の仮説を理論的な基盤に据え、動詞が現れる統語環境とその屈折の習得との関連性について調査した。各仮説に基づく調査結果の概要は以下のとおりである。 機能範疇と密接に関わる文法形態素を重視するボトルネック仮説に従うと、従属節に現れる屈折辞について正確な文法知識が習得されれば、屈折辞の決定に影響する従属節の統語特性(接続詞の種類、顕在的主語、定形・非定形)の習得も自ずと促されることになる。日本語を母語とする中級の英語学習者を対象とする、that節、if節およびゼロ形式(接続詞省略)に関する文法性判断テストと、従属節内の動詞形態に関する多肢選択問題を実施した。英語母語話者の判断を基準に2つの結果の関係を分析したところ、相関は見出せず、ボトルネック仮説は支持されなかった。一方で、ゼロ形式について学習者と母語話者に同様の知識があることを示唆するデータが得られ、非明示的な文法知識の習得についてさらに追究するための足掛かりとなった。 インターフェイス仮説に基づくL2習得モデルを仮定し、定形・非定形従属節における屈折辞の習得を調査した。従属節内の主語の脱落については、L1からL2への干渉はほぼ確認できなかったが、一方で動詞の屈折に関しては、L1からの転移が顕著に確認された。誤りの出現頻度は、-sの脱落が節のタイプにかかわらず高いが、-ed(過去時制辞)の誤りは補文内で高く、他の節タイプでの頻度と顕著な差がある。習得モデル上、中級のL2学習者にはPFにおいて(解釈不可能な)形式素性の具現化(つまり、実質的意味でなく文法的要請により必要とされる屈折辞)にアクセスできない状態であることが検証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
感染症拡大の影響で、2020年度前半は実験授業を行うことができず、オンライン授業の対応や、文献調査や計画の立案に専念せざるを得ない状況だったため、本調査やデータ収集が秋以降に半年後ろ倒しになってしまった。2020年度に予定していた国内外での研究調査や成果発表だけでなく、自分の勤務地近隣での研究協力者の確保や調査に必要な接触にも制限がかかり、研究の実施が困難であった。しかし、当初の計画より規模や期間を縮小した形での研究調査にはなったものの、近隣地域の公共機関から支援が得られ、また勤務先で学ぶ日本人学生や留学生の快い協力のもと、英語で論文を執筆し、海外の研究会にオンラインで参加し成果発表できたことは収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
感染症拡大の影響で、国内外への出張や研究協力者(主に外国語学習者)との接触が困難で、一部実施できない状況であるため、研究課題自体は変更しないものの、研究対象とする言語、焦点を当てる言語特性、研究調査等の実践方法を変更して対応していく必要がある。現時点では、国内でも十分に協力者を確保できるよう、研究対象に含まれる音調言語をベトナム語から中国語に変更し、研究トピックにも研究があまり進んでいない音韻と統語のインターフェースの観点を取り入れる。このトピックに着手するため、2021年度の旅費相当分の研究費を2020年度に前倒し請求しており、すでに年度末に音声解析装置を購入済みである。
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次年度使用額が生じた理由 |
数千円程度の繰越金が生じたため、今年度消耗品の購入に充てることにする。
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