研究課題/領域番号 |
20K13152
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研究機関 | 東洋英和女学院大学 |
研究代表者 |
関谷 弘毅 東洋英和女学院大学, 人間科学部, 准教授 (60759843)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 井の中の蛙効果 / 習熟度別クラス / クラス内での位置づけ / 学業的自己概念 / 学習動機 / 学習ストラテジー / 学習量 / 英語教育 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,日本の大学英語教育における「井の中の蛙効果」を検討することであった。具体的には以下の4つの課題を設定した。①7000名以上の大学生を対象に入学時から学期(学年)終了時にかけ,英語学習に対する学業的自己概念,動機づけ,学習ストラテジーの使用,学習量の変化が,所属する習熟度別クラス及びそのクラス内での位置づけによりどう異なるのかを比較・検証する。②異なる場合,その原因及び心的な変容プロセスをインタビュー調査によって検討する。③結果が学生の学びの専門 (学科など) によって異なるかどうかを検討する。④結果を,英語を学ぶ条件が比較的類似している中国の大学生と比較し,日本の文化的特異性を検討する。
2年目である当該年度は,前年度から引き続き新型コロナウィルスの感染拡大状況による影響を受け,新しく調査を実施することが困難であった。そのため,現段階で得られたデータを論文にまとめ,成果を発表することに専念した。具体的には,所属するクラスの習熟度レベルとクラス内の相対的な位置が,学業的自己概念,学習動機,学習時間に与える影響を学期の初めと最後に測定した。調査協力者は,257名(英語専攻50名と,英語非専攻207名)であった。分析の結果,非英語専攻の学生はより習熟度の高いクラスに所属すると学業的自己概念が高まる傾向が見られた。また,英語専攻の学生はより習熟度の低いクラスに所属すると学習動機が高まり,クラス内の相対的な位置が高いとさらに学習動機が高まる傾向が示された。これらの結果から,プレイスメントテストによる機械的な習熟度クラス分けは,英語学習において常に学習者の自尊感情や学習動機を最適化するわけではないことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
①予定どおりに進行した点:「井の中の蛙効果」を検討するため,日本の大学生を対象に,学業的自己概念,学習動機,学習時間を尋ねる質問紙調査を実施した。
②予定以上に進行した点:上述の検討結果を論文にまとめ,学会誌に発表した。
③予定どおりに進行しなかった点:本来は,1年目に質問紙の項目数を減らしたうえで改めて妥当性と信頼性の検討をし,協力者に負担のかからない尺度の作成を目指していた。また,その上で中国版質問紙を作成し,妥当性と信頼性を検討する予定であった。しかし新型コロナウィルスの感染拡大により,調査依頼を予定していた多くの教育機関において調査が不可能となった。2年目に当たる当該年度も状況は正常化せず,調査の実施は依然として1校においてのみとなっている。中国での調査の実施も引き続き不可能となり,中国版質問紙の作成は中断している。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた手順に従うと,研究の進捗は大幅に遅れることが見込まれるため,今後の研究の推進方策として以下の代替案を考えている。
①インタビュー調査の先行実施と分析:本来は質問紙調査の結果に基づいて学生を抽出し,インタビュー調査を行う手順であったが,質問紙調査を待たずしてインタビュー調査を実施する。具体的には,インタビュー調査が実施可能な状況にある学生を対象に,所属する習熟度クラスとクラス内での位置との関連の中,動機づけ,学業的自己概念,学習ストラテジーの使用が変化するプロセスを探るための半構造化面接を実施する。分析はキーワードを抽出して質的分析及び計量テキスト分析の手法を用いて進める。 ②中国以外の国・地域での実施:本来は,英語を学ぶ条件が比較的類似している中国の大学生と比較し,日本の文化的特異性を検討する予定であった。しかし,新型コロナウィルスの感染状況の終息の目途が立たない中,一つの国に限定することは大きなリスクを伴う。他の国・地域も視野に入れ,調査遂行の実現性を重視して柔軟に対応する。そのための準備として,質問紙の各尺度数を厳選したうえで実施言語に翻訳する。これらの尺度に関して,日本語版との因子構造の同一性,及び内的整合性,再検査信頼性の確認したうえで大規模調査の実施を目指す。 ③改善のための介入法の模索:「井の中の蛙効果」により,不利益を被る学習者を想定し,クラス内の他の学習者(ピア)がどのような態度・振る舞いを示せばそうした不利益を軽減できるのかを模索する。具体的には,言語活動を学習者同士で行う際に,よりよい聞き手になるための要件を特定し,それを身に着けるための介入法の開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は前年度に引き続き,新型コロナウィルスの感染拡大により調査依頼を予定していた多くの教育機関において学生の入構が制限されることとなった。その結果,質問紙の実施が不可能,あるいは可能であったとしても習熟度別授業が事実上機能せず調査の目的が果たせないなどの理由から,新たに実施校を増やすことはできなかった。中国での調査の実施も依然として不可能であり,中国版質問紙の作成は中断せざるを得なくなった。このような状況において,当該年度はすでに得られているデータを分析して論文を執筆,発表することが主な研究活動であった。以上の事情により,旅費の執行がなかったこと,人件費・謝金の支出が大幅に減ったことが,次年度使用額が生じた理由である。新型コロナウィルスの感染拡大の終息のめどが立たないなか,計画のうち代替可能なものはオンラインによる調査に切り替えることを考えている。次年度使用額はそのための環境・設備の準備に充てる予定である。また,中国以外の国・地域での実施可能性も積極的に模索していく。そのために必要な旅費にも研究費を使用する予定である。
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