研究課題/領域番号 |
20K13159
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 日系ブラジル移民 / マイグレーション・スタディーズ / 知識人 / 日系ディアスポラ / 言論活動 / ナショナリズム |
研究実績の概要 |
本年度は,香山六郎(新聞人,『聖州新報』社主,移民史家),および岸本昂一(教育家,執筆家)の活動・著作を中心に研究活動を進めた。以下にその詳細を記す。 先行研究の盲点になっている香山六郎の『移民四〇年史』(1949年刊)および『回顧録』(1976年刊)における戦争経験(具体的にブラジル日系移民が第二次世界大戦中に経験した同化政策下の抑圧の歴史,あるいは戦後の勝ち負け抗争に代表される混乱期)の描写(またはその欠如)の意味,および日系ブラジル移民史の言説におけるその影響について論じた。加えて,岸本昂一の『南米の戦野に孤立して』(1947年刊)におけるヴァルガス政権下の日系移民の抑圧の歴史の描写を考察した。香山と岸本については,例えば2020年11月6日~8日に開催された「国際日本研究」コンソーシアム・法政大学国際日本学研究所・アルザス欧州日本学研究所共催事業『2020 年度 国際新世代ワークショップ』において英語で中間成果として発表した。 ブラジルにおける日系知識人の活躍について,「ブラジル日系社会における歴史,記憶,そして移民知識人」という題目で「日本・ブラジル研究ゼミナール」(サンパウロ大学日本語学科およびサンパウロ人文科学研究所共催イベント)においてポルトガル語で発表した。 その他,『越境文化研究イニシアティヴ論集』第4号(大阪大学大学院文学研究科)において「Japanese Studies in Brazil: History, Present, and Prospects」という題目でブラジルにおける日本研究について,日系移民知識人の観点から論じた。 初年度の研究活動は,2021年度Asian Studies Conference Japanの個人報告(コロナ禍で中止),2021年度の移民学会年次大会のラウンドテーブル,および日本ラテンアメリカ学会の個人報告の採択に繋がった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍により,ブラジルでの現地調査はもちろんのこと,国内調査でさえ2020年度は実施しにくかったので,当初予定していた計画を大幅に改正し,初年度を入手可能な資(史)料の分析・考察,およびオンラインで開催された会合での中間報告に充てた。よって,ブラジルの資料館にある一次資(史)料の調査・採集は2年目以降に急遽変更し,現時点で実行可能な調査および分析を優先した。 2020年度後半は,第一次・第二次非常事態宣言の解除の後や,感染防止対策の周知のお陰で,国内調査が少しずつ可能になったので,順次にそれを実行したが,今でも府・県境を跨いだ移動が必ずしも簡単ではないので,例えば国会図書館の遠隔複写サービスを利用し,あるいはオンラインで閲覧可能な邦字新聞(移民が刊行した新聞)など,移動が規制されている状態でも入手しやすい資(史)料の考察や,本研究の次の段階の構築に繋がる基礎的な作業を先に進めている。 また,オンラインにおいて開催されるイベントの急増や,オンラインを利用した共同研究・国際会議・連携研究などの開催は,このプロジェクトに海外(米国,ブラジルなど)の研究者との気軽な接触の機会をもたらしたので,その点は予想外だったが好結果に繋がった。現時点では,JICA,サンパウロ大学,スタンフォード大学のHoover Instituteなどと共同研究の可能性・計画の話を進めている。 というものの,海外調査は本研究にとって必要不可欠である。特にコロナ禍の終息の兆しが未だに見られないブラジルへの渡航がいつ可能になるか現時点では予測できないので,軌道修正を施す必要性にまた迫られることがあるかもしれない。なお,海外調査が未だに出来ていないにも関わらず,上記で説明した計画の修正により現時点でも予定していた研究がおおむね順調に進展していると判断しても差し支えないだろう。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,国内調査を徹底し,おおむね研究計画通りに実施するつもりである。ブラジルでの現地調査はいつ可能になるか判断しにくい点だが,現地の研究者と協力し,資(史)料の提供や,情報交換を心掛け,オンラインでも協力体制を補強するつもりである。ブラジルでの現地調査が可能になったら,2021年8月あるいは2022年2月(あるいは両方)に各3~4週間の調査を予定している。コロナ禍のせいで南米への渡航規制が緩和されず,現地調査が不可能な場合,やむを得ず,現地調査を本プロジェクトの最終年度である2022年度に延期し,本年度を実施可能な作業に割くつもりである。 なお,2021年度は現時点において日本移民学会年次大会のラウンドテーブル,日本ラテンアメリカ学会の個人報告(両方とも採択済み)の他に,共同研究グループや複数の勉強会・研究会などで中間成果発表を行い,少なくとも1本の論考を査読付きのジャーナルに投稿する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により国内・国外調査が実施しにくくなり,本研究の初年度に予定していた作業は大幅に改修されなければならなかった。国内・国外移動の規制により,直接経費の大半を占めていた「旅費」は使えず,その一部が翌年度に繰越される結果になった。それが次年度使用額が生じた最大の理由である。なお,「旅費」に充てるつもりであった予算の一部は,本研究の2年目・3年目に購入を予定していた物品(主に資(史)料,研究図書など)に充てることにした。予定していた「物品費」・「その他」の使用額が少なくなった理由である。 なお,パンデミック下での調査・研究は,当初予定していた研究計画書の改正・軌道修正により,国会図書館の遠隔複写サービスの利用や,資(史)料・書籍の購入に頼らざるを得なくなったところが大きい。2020年度の使用額のほとんどは,そういうものに充てられた。
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