最終年度では、前年度の岸本昂一の考察に続き、若きブラジル人の親日家として1940年代初頭に来日し、戦時期の日本を体験し、1944年にポルトガル語でその体験記を刊行したMario Botelho de Miranda(マリオ・ボテーリョ・デ・ミランダ)についての考察をより中心的に行った。併せて、ミランダが団長を務めた「サンパウロ大学学生訪日団」における唯一人の日系人の構成員であった山城如世(Jose Yamashiro)の訪日体験を当時の日本語新聞での連載およびその自伝から考察し、JICA横浜海外移住資料館の講演会において発表した。訪日団の意義を、ラテンアメリカにおいて大日本帝国を宣伝する試み、または帝国思想におけるラテンアメリカの地政学的な重要性を視野に入れて論じた。この考察はこれから続ける予定である。 また、移民が住まう家に焦点を当て、日系ブラジル社会における「住居」の表象を写真集、日本語新聞での論説、移民知識人の言論活動から論じ、その成果の一部を国内学会において発表した。この課題もこれから継続するつもりである。 研究期間全体に関していえば、この課題がコロナ禍を挟み実施されたにも関わらず、多くの成果を上げることができた(シンポジウム・学会での発表が8回、論文が2本)。日系ブラジル社会における「移民知識人」の活躍に光を当てることができ、取り分け第二次世界大戦がどのように見られ、論じられたかをある程度分析することができた。このプロジェクトを通じて、ブラジルのみならず、日系移民が渡った先々を専門分野としている研究者とのネットワークを構築することもでき、学際的・分野横断的な研究の可能性が見えてきた。本課題の次に採択された「日系ブラジル社会と大日本帝国の思想的紐帯」(若手研究、2023年~2026年度)という課題において、分析のスコープを拡大するつもりである。
|