研究課題/領域番号 |
20K13174
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
巽 昌子 東京都立大学, 人文科学研究科, 助教 (90829326)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 武家社会 / 公家社会 / 寺院社会 / 相続 / 比較 / 処分状 / 付法状 / 継承 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は武家社会における相続に検討を加え、武士の発生や展開の背景、およびその社会の特質を追究することにある。 はじめに武家社会の相続の在り方を考察し、武士が「武家」という独自のコミュニティを形成し展開する過程を詳らかにする。続いて武家が公家や寺院といかなる関わりを有し、影響を及ぼし合ったのかについて探る。相続を軸にした武家・公家・寺院社会の特質の比較・検討を通し、武家社会の独自性を解明する。 研究2年目となる令和3年度は、武士が「武家」社会を形成し展開する過程を、「処分状」にもみられる花押やハンコに焦点を当てて追究し、「中世社会における花押の役割と位置付け」と題した研究報告を行った。今年度は花押やハンコを通して、相続をはじめとする武家社会の継承の在り方を探ったが、今後は公家・寺院社会との比較へと考察を広げることによって、武家社会の独自性の鮮明化を試みる。 この花押・ハンコの研究にも関わるが、昨年度にロシア近世史、博物館学の研究者と取り組んだ、「継承」と「デジタル化」とを共通テーマとした比較史研究も継続しており、その研究成果を来年度中に書籍として刊行するべく準備を進めている。 一方で、寺院社会の相続に関する論文も発表した。本論文は平成31年に開催された公開シンポジウム「「継承」の比較史 ―伝えられるモノと文化― 」の成果報告であるが、本研究課題のテーマの一つである、武家社会と寺院社会との相続の比較・検討に向けての準備としても意義のあるものである。この研究を基に、次年度以降は武家社会の相続時にみられる「処分状」と、寺院社会の相続の際に用いられる「付法状」との比較を進展させ、武家社会の特質の解明に結び付けることを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では武家社会の相続の在り方を考察し、武士が「武家」という独自のコミュニティを形成し展開する過程を詳らかにする。続いて武家が公家や寺院といかなる関わりを有し、影響を及ぼし合ったのかについて探る。相続を軸にした武家・公家・寺院社会の特質の比較・検討を通し、武家社会の独自性の解明を目指す。 昨年度は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、研究の進展に遅れが生じる虞があったため、急遽研究計画を変更し、他分野の研究者との比較研究を通して日本中世における武家社会の特質の鮮明化に取り組んだ。具体的にはロシア近世史と博物館学の研究者とともに、それぞれの専門分野の観点から、デジタル化と継承の「影響・現状・進展」を模索した。その比較研究の中でハンコや花押に注目し、武家社会における相続を中心とした継承の在り方や、イエの成立について探究を試みた。 今年度もこの研究を継続し、武家社会における花押やハンコに関する考察を一層進展させ、研究報告を行った。さらに、この比較研究の成果は来年度中に書籍として刊行する予定であり、現在準備を進めている。花押やハンコを通して、相続をはじめとする武家社会の継承の在り方を探り、さらに公家・寺院社会との比較へと考察を広げることによって、武家社会の独自性の解明を目指している。 それと同時に、今年度は相続時に用いられた文書を軸とした、武家社会と公家・寺院社会との比較研究という当初の方針に立ち返った研究も進めることができ、論文を発表した。具体的には寺院社会の「付法状」の研究を発展させ、武家・公家社会の「処分状」との比較に向けての準備を進めた。 以上のようにふたつの方向から、武家社会と公家・寺院社会との相続および特質の比較・検討を行う準備を進めることができており、研究計画はおおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度ははじめに、昨年度から継続している他分野の研究者との比較研究を基に、日本中世における武家社会の継承に検討を加えた。続いて「処分状」と「付法状」との比較研究に取り組み、武家社会と公家・寺院社会との相続および特質の比較・検討を行う準備を進めた。今後もこのふたつの方向から、武家社会と公家・寺院社会の特質の共通点・相違点の明確化に取り組んでいく。 次年度はまず、前年度主催した「コロナ禍で考える「継承」 ~デジタル化?デジタルか?~ 」シンポジウム(「継承」の比較史研究会、2021年3月)における報告の内容に、今年度進展させた研究の成果を反映させた図書を刊行するべく、準備を進める。同書にかかわる研究においては、ハンコや花押に注目し、武家社会における相続・継承の在り方、イエの成立について探究を試みる。 次に「処分状」と「付法状」との比較を深め、武家社会と公家・寺院社会との間にみられる、相続の在り方、イエの成立に関する共通点・相違点を詳らかにする。殊に諸子分割相続から嫡子単独相続へと、相続形態が移行する時期の相続に焦点を当て、九条家や勧修寺家に代表される公家の処分状について考察を加える。そこで明らかになった特徴を基に、武家社会の事例と比べることによって、武家社会における相続の独自性の鮮明化を目指す。 さらには発生初期の武士の相続に関する研究も進めていく。そこから武士の発生や展開の背景を考察するとともに、武士が「武家」という独自のコミュニティを形成する過程を探っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響により、当初計画していた史料収集が行えず、旅費・人件費を使用できなかったことから次年度使用額が生じた。 次年度は史料収集の目途が立ったため、繰り越した助成金を活用して、今年度実施に至らなかった課題に取り組んでいく。
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