本研究は、主に中近世の「朝廷文書」の現物調査等によって得られた知見を、現存史料の少ない古代史(とりわけ平安時代の朝廷における儀礼(政務や祭祀なども含む)の復原)研究に活用することを目指してきた。本年度は、本研究課題の最終年度に当たり、前年度までの研究成果をまとめるとともに、その為の確認作業等を行った。 本研究では、とりわけ官方の朝廷文書に注目した調査・研究で大きな成果があった。すでに昨年度にも触れているように、平安時代中期以降の朝廷の儀礼・政務の運営は外記や史によってその実務が担われたが、このうち弁官局(史)を中心として運営された官方行事に関しては、当然ながら弁官局に多くの文書が残された。中世以降、この官務を担うことになった小槻氏の後裔である壬生家には、中世の官方行事に関する文書が数多く残されており(壬生家文書)、本研究はこのうち宮内庁書陵部に所蔵される壬生家文書のひとつ、仁王会文書について、現物を熟覧し、史料の記載内容のみならず、折り目や法量などの物質的側面も注意深く観察した。加えて京都大学が所蔵する同文書の写真帳とを付き合わせることにより、当該文書がもと粘葉装であることを明らかにした。 平安貴族社会の儀礼・政務において、粘葉装の朝廷文書が活用されていたことが明確になったのは、ほとんど初めてのことと言え、本年度は、書誌学などの関連諸分野の研究成果にも学びながら、この発見のもつ意義について考察し、活字化して発表した(黒羽亮太「平安貴族社会の儀礼・政務と〈メディア〉:仁王会立紙の「発見」」『古文書研究』96、2023年)。 なお、当該文書や、それに関連する諸問題については、なお解明すべき事柄もあることから、引き続き研究課題として設定し、さらなる調査を進める予定である。
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