2022年度は新型コロナウイルスの影響はやや落ち着いたものの、本研究の中心をなす「水左記輪読会」の活動は引き続きオンライン(Zoom)にて実施した(全11回実施)。 輪読会では、2021年度までに自筆本の残る『水左記』康平7年の校訂文・註釈の作成・公表を終えたため、2022年度は、写本(抄出本)の残る治暦元年正月~六月を読み進めた。それらの成果は、『岐阜聖徳学園大学紀要』第62集(2023年2月)および大阪公立大学大学院文学研究科紀要『人文研究』第74巻(2023年3月)に掲載され公表済みである。このほか輪読会では、平安時代後期に関する研究報告も実施した。 本年は最終年度であったため、そのとりまとめの研究成果物として、『稿本『水左記』註釈(康平年間)』を作成・刊行した。これは、すでに輪読会にて作成・公表した『水左記』康平5~7年の註釈について改めて総点検し、内容の充実をはかったものである。この間、研究成果物(註釈掲載紀要の抜刷)をできる限り幅広い範囲の研究者に送付してきたが、それへの応答としてご指摘いただいた諸点を生かすよう努めた。 また、2022年度も本研究課題遂行に必要な研究書・史料集の購入など、研究環境の整備も進めることができた。 本研究の実施により、これまで本格的になされてこなかった『水左記』の厳密な註釈を作成することができた。限られた時期のものとはいえ、自筆本の残る期間を含み、また他の同時代史料がきわめて少ない時期であることに鑑みれば、平安時代後期の研究に寄与するものであったと自認している。これに加え、自筆本の原本観察の必要性や、写本やそれにかかわる部類記の検討の必要性など、新たな課題も明確化できた。 これらを踏まえ、今後も『水左記』註釈の作成を可能な範囲で進め、平安時代史、ひいては古代・中世移行期の研究を進めていきたい。
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