最終年度となる本年度は、当該研究期間全体で得られた研究成果をまとめ、研究書として刊行することに最も注力した。具体的には、既発表論文で展開した議論の見直しをふくめて検討課題の残っていた日清戦後の東京市政の動向をめぐって、東京都公文書館・国立国会図書館などで行政文書、新聞・雑誌、政党の党報などを中心とした史資料の調査をおこなうとともに、東京市会・東京市区改正委員会の議事録を精読した。その結果、1890年代から1900年代にかけての東京の改造事業(市区改正計画)の展開をめぐって、(1)市会と市区改正委員会が計画の変更(努力)に対して各々はたした役割および両者の相互関係、(2)市街鉄道の敷設出願に関与する実業家、メディア関係者、市区改正委員、市会議員間の影響関係や重複について、新たな知見を得た。これと並行して、1880年代に東京府知事を務めた松田道之の収発書簡の翻刻を、鳥取市歴史博物館と連携しつつ他の研究者1名と共同で進め、当時の東京府政について新たな知見を得た(合計190通の書簡の翻刻は、同館が挙行した松田の特集展示の図録の資料編として刊行した)。以上の作業を通じて得られた新たな知見をふまえて、1870年代から1900年前後にかけての東京の議会を主題とした研究書(『首都の議会:近代移行期東京の政治秩序と都市改造』)を刊行した。また、これと並行して、初期東京府会の指導者だった福地源一郎と沼間守一の東京観・政治観を比較検討した論文、戦間期に全国町村長会会長を務めた福沢泰江の政党政治・地方自治観を明治期の政党否定論に尽きない要素に注目して分析した論文、区政機構の整備と一体的に展開された19世紀終盤の東京における慈善を同時代の英国における慈善と比較検討した論文を刊行した。
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