本研究は、日本の近代官僚制の特徴である「学歴主義」と「学閥主義」及び「前例主義」という観点から、「植民地官僚」論を問い直すものである。「植民地官僚」論は、被支配者(台湾人・朝鮮人)への任官・昇給時の差別待遇と被支配者の官僚機構からの排除を強調する。しかし、日本の近代官僚制は、民族的観点から差別待遇や排除を「制度化」したわけではなく、「学歴主義」と「学閥主義」及び「前例主義」を根幹的な論理として展開した。これらの論理が顕著に見いだせるのが、台湾総督府における医学系官僚の人事である。本研究の目的は、この台湾総督府医学系官僚の人事に作用する学歴と学閥の法則性と前例の積み重ねによる「慣行」を解明することを通じて、日本の近代官僚制の特徴を個別具体的に実証するとともに、「植民地官僚」論を再考することにある。 本研究は、上述の目的を達成するため、「総督府医学系官僚が所属する組織の成り立ち・変遷・人的構造」と、「総督府医学系官僚の人事と経歴」という二つの側面から分析を進めた。2022年度においては、とりわけ台湾総督府の中央衛生行政機関たる衛生課に所属する医学系技術官僚に焦点をあてて研究を実施した。 本研究の成果(2020~2022年度)は、2023年度日本植民地研究会全国大会(2023年7月22日開催)の共通論題「帝国日本の台湾統治と技術官僚」にて公表する。本共通論題は、報告者が企画し、帝国日本の官僚制が帝国全体で稼働している機制であるとの認識の下、専門分野の異なる技術官僚(医学系・農学系・土木系等の技術官僚)を横串に刺して検討することにより、技術官僚の養成、任用・待遇・昇進・異動等の人事、総督府の政策と技術官僚の果たした役割を総体として解明する試みである。
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