本研究は、起請文に記載された複数の神仏(勧請神)の選択基準や配列、勧請神全体の構造の解明を通じて、戦国期の人々が誓約において、なぜ・どのように神仏を必要としたのか、その社会的・思想的背景を解明することを目指すものである。 2023年度は2022年度に引き続き、中世を通じて日本全国で発給された起請文のデータベース化を進めた。主に入力データの見直しや、西国関係の事例をさらに旧国名ごとに分類する作業を行った。そして西国関係の事例のうち、中世後期に発給された起請文1493点の一覧を「中世起請文と勧請神に関する基礎的研究―起請文一覧(二)―」として、『歴史の広場―大谷大学日本史の会会誌―』26号(「大谷大学日本史の会」発行)に掲載した。東国の事例は2022年度に同じく『歴史の広場』25号に掲載済みであり、この2編をもって中世後期の起請文一覧の公開を完了した。このほか、2022年度に引き続き、原文の確認が必要な史料について、東京大学史料編纂所で数回に渡って調査を実施し、写真版や影写本による確認を進めた。 本研究により、八幡大菩薩や天満大自在天神などの日本の主要な神仏の記載状況について、国ごとの特徴や全国的な傾向を把握することが可能となった。更に、これまで地域単位や家単位などで個別に研究が進められてきたために、その全体像を掴めずにいた中世後期の起請文について、全国的な特徴の把握や国ごとの比較なども可能となった。なお、データベースを通じた勧請神の具体的な分析にまでは至らなかったため、今後の課題としたい。
|