本研究課題は、昭和初期に公娼制度廃止を検討した愛知県の事例を用いて、女性の人身売買問題がいかに考えられてきたのかを扱ったものである。ただし、明治~昭和期にかけて売春営業に従事したものは公娼のみではなく、その他の営業については詳細は不明となっていた。そのため、本研究課題では、公娼以外の売春営業者についても対象とし、営業実態の解明・その場における女性の役割などを明らかにし、売春営業の全体像を把握したうえで、人身売買問題に切り込むものである。 本年度は、年度途中での研究中断となったが、前年度から引き続き検討している「料理屋飲食店カフェー喫茶店営業台帳」史料の分析について進展があった。特に、前年度の研究報告以降、台帳記載の詳細な立地を特定するため史料収集を行い、また実際の位置関係・距離感、人々の行動範囲を想定するため実地フィールドワークも実施した。 これをもとに、各店舗の立地、女給の就廃業(入れ替わり)の状態、各町ごとのカフェー営業の傾向について検討を進め、昭和10年代カフェー営業の置かれていた状況を分析した。その結果、1934(昭和9)年の「酌婦取締規則」および「料理屋待合茶屋取締規則」の改訂により、カフェー営業者にも改廃の動きが現れたこと、また女給の労働状況にも変化が発生したことが判明している。 以上の変化は、1934(昭和9)年に発生した公娼制度廃止の検討と軌を一にするものである。公娼制度廃止が頓挫したのに対し、規則の変化に直面したカフェー・女給営業がどのような影響を受けたのか知る極めて重要な成果となっている。また、カフェー研究をめぐっては昭和初期のカフェーの隆盛に注目が集まる一方、カフェーがその後どうなっていったのかについては未だに十分な検討を加えられているとはいいがたい。その点でも、本研究の成果は、きわめて重要なものであるといえる。
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