研究課題/領域番号 |
20K13197
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
大江 平和 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 基幹研究院研究員 (20869193)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 児童福祉 / 中国民国期 / 慈善事業 / 社会事業 / 孤児院 / 香山慈幼院 / 熊希齢 |
研究実績の概要 |
1年目の2020年度(1年目)は、上海・南京の档案館等において、1920年代社会局の組織や構成員及び行政側と慈善機構側との往復文書を収集・分析する計画を立てていた。しかし、2020年度はコロナ禍にあって海外渡航が不可能となり、実現することができなかった。そこで、国会図書館や東洋文庫にその都度閲覧予約を取って通いながら、関連史料文献を閲覧し、必要なものは複写した。例えば、国会図書館では、『近代中国史料叢刊』、東洋文庫では『文史資料』、『婦女雑誌』のマイクロフィルムなどである。『近代中国史叢刊』では、南京市政公署秘書編「南京市政概況(民国27年)」の精読を通して、同時代の南京市概況を把握した。本研究課題の基礎知識を一つ固めることができた。『文史資料』や『婦女雑誌』では、膨大な量のフィルムのなかから「慈善事業」あるいは「慈善事業を支えた女性」などをキーワードに関連史料を閲覧した。「慈善事業を支えた女性」で記事を探したのは、本課題の関連史料が乏しい状況にあって、女性の視点から何か見えてこないだろうかと考えたためである。『婦女雑誌』について、これまでの調査によれば、「慈善事業」や「福祉」に関する記事はほとんど抽出できなかったことから、「慈善事業」や「福祉」は同時代の女性の関心事ではなかったことを明らかにすることができた。 2020年度の具体的な実績としては、2015年、北京の中国国家図書館で入手していた史料『北平香山慈幼院院刊』を検討したことである。従来十分に検討されてこなかった当該史料を丁寧に読み込むことで、北京香山慈幼院卒業生の動向を解明し、中国社会とりわけ教育分野において香山慈幼院の果たした役割を明らかにした。この研究成果は「北京香山慈幼院卒業生の進路とネットワーク:『北平香山慈幼院院刊』を手がかりにして」として論文にまとめ、『お茶の水史学』第64号に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者は、1年目の2020年度に、北京、上海、南京、台湾へ行き、史料調査を行う計画を立てていた。北京では首都図書館・国家図書館・北京市档案館、南京では南京市档案館・中国第二歴史档案館、上海では上海市档案館・上海図書館、台湾では台湾国家図書館・国史館・中央研究院などが調査予定機関であった。ところが、コロナ禍で海外渡航が不可能となり、計画通りに史料調査ができなかった。これが、進捗がやや遅れた最大の理由である。加えて、参加を予定していた中国で開催される国際学会が中止となったりするなど、研究者同士の対面での交流の機会も失われたことは、研究の進展を阻害する要因となった。
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今後の研究の推進方策 |
コロナの収束の見通しが立たない現況にあって、当面は海外への史料調査は実現不可能であると予測している。対応策として、本課題で掲げた、北京、南京、上海との比較だけでなく、同時代の日本との比較も視野に入れることとする。可能であれば、先に挙げた「慈善事業を支えた女性」の視点も加えたい。そこで次のように研究計画を見直した。 ①海外での史料調査は2023年度(4年目)に先送りする。 ②2021年度(2年目)は、日本国内で入手可能な史料を発掘することに力を入れる。具体的には、国会図書館・東洋文庫・国立公文書館アジア歴史資料センター・防衛研究所で史料調査を行う。2年目で得られた研究成果をまとめ、学会発表、論文投稿を行う。 ③2022年度(3年目)には、同志社大学図書館特別コレクション生江文庫で史料調査を行う。同時代「日本社会事業の父」と称される生江孝之(1867-1959)が中国各地を訪れ、社会事業を視察した報告書「支那社会事業報告書」(興亜院政務部、1940年)が同支社大学図書館特別コレクション生江文庫に所蔵されていることはすでに確認している。3年目で得られた研究成果をまとめ、学会発表、論文投稿を行う。 以上、2021年度と2022年度は、コロナ禍にあっても、国内で収集できた史料から、テーマに沿ってできることに力を入れていく計画である。個別の実証研究を積み重ねながら、日本との比較および女性の視点も加えて、近代中国の慈善事業から社会事業への転換過程における3都市の特質と意義を明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者は、本研究課題を遂行するため、2020年度(1年目)に中国、台湾へ史料調査へ行く計画を立てており、そのための旅費を計上していた。しかし、コロナ禍で海外渡航が不可能となり、実施することができなかったため、その分は未使用となった。 また、輸入書を購入した場合、入手までに時間を要することと、高価になることを鑑み、当初は、中国、台湾へ史料調査へ行ったときに、現地で中国語の関連文献を購入する計画であった。これについてもコロナ禍のため断念せざるを得なかった。したがって、書籍代についても未使用分がある。未使用分は次年度使用額として、翌年度分として請求した助成金と合わせて、コロナ禍が収束、あるいは改善された時点で、すみやかに2020年度(1年目)に予定していた計画および2021年度(2年目)に予定している計画実施のときに使用する予定である。もしコロナ禍が収束しない場合は、旅費は国内の史料調査に充て、中国語の書籍は輸入書を購入する計画である。
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