研究課題/領域番号 |
20K13200
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
秋田 朝美 京都大学, 経済学研究科, ジュニア・リサーチャー (40793691)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 棉麦借款 / 国民政府 / 中米関係 / 経済援助 / 桐油借款 / 救済 / 1930年代 |
研究実績の概要 |
本研究は、1930年代後半におけるアメリカが南京国民政府に供与した借款問題を東アジア国際秩序の文脈で再検討している。1933年に締結された棉麦借款5000万ドル(綿花4000万ドル、小麦600万ドル、小麦粉400万ドル)は、34年初めに、綿花4000万ドルのうち3000万ドルが減額の対象となった。この未使用の減額分3000万ドルの行方について、1930年代後半に注目し、政治・経済・外交面の多様な角度を融合させ、アメリカからの借款の連続性と中米交渉の継続性に着目して研究を進めてきた。 2022年2月、日本植民地研究会、春季研究会(Zoomによる開催)で報告し、有益な知見を得ることができた。コメンテーターからの的確な指摘を受けて、1930年代の中国の借款だけでなく、1910~20年代の長いスパンで一連の諸借款を俯瞰することの重要性を学んだ。 その後、拙稿を再検討したうえで、学術雑誌『アジア経済』誌に投稿し、査読者2名のコメントを受けて加筆・修正作業を行った。棉麦借款の変質過程と次期借款である桐油借款の締結に至る政策決定過程について、中国側の史料を追加して実証的に明らかにしている。重要なのは、人道的救済を含む「経済援助」の利用と対米交渉が次期借款の締結へとつながる契機となったことである。特に注目したのは、1935年11月初めに実施された中国の幣制改革の成功により、中国がいかにアメリカからの追加の借款を得ようとしていたのか、また、アメリカはそれに対してどのように対応しようとしたのか、という点である。中米双方の視点に注視して、減額分の3000万ドルの行方を分析し、当該期の東アジア国際秩序の文脈で検討した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度は研究課題の最終年度としていたが、コロナ禍の影響を受けて、当初の史料調査計画を断念し、研究計画を大幅に変更して研究を進めてきた。だが、研究成果が達成されていないため、研究期間を1年延長し、本研究課題を継続することとした。2022年2月に「国民政府期の借款問題と米国の思惑」と題して日本植民地研究会 春季研究会(Zoomによる開催)で報告し、有益なコメントを頂いた。その的確なコメントを反映させつつ、拙稿を加筆、修正し「国民政府期の借款問題とその政治・経済的帰結―中米交渉を中心に―」と題する論考を『アジア経済』誌に投稿した。『アジア経済』誌の編集部からの査読結果を踏まえて、「1930年代後半におけるアメリカからの借款問題―棉麦借款から桐油借款へ―」と改題し、さらに加筆・修正して、現在修正稿を同雑誌に提出している状況である。史料調査を十分行えなかったが、研究課題に関連する1次史料や2次文献資料などを入手する機会に恵まれ、修正稿に反映させることができた。だが、諸事情により、台湾国史館での史料調査がまだ実現できていない状況である。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度の早い段階で、台湾国史館での史料調査を実現させて、研究課題をさらに深化・発展させる契機とする。また、実施できていないアメリカ国立公文書館(National Archives Record Administration Ⅱ)での国務省・財務省の史料調査を行う。 現在取り組んでいる拙稿「1930年代後半におけるアメリカからの借款問題―棉麦借款から桐油借款へ―」をベースにして、さらに報告を予定している。まず、2023年5月25日に京都大学経済学研究科主催の「史的分析セミナー」で報告する予定であり、5月27日には、現代中国史研究会主催の東海地区例会での報告も予定している。両研究会では、それぞれ研究分野の異なる参加者からの助言を得て本研究課題をまとめていく段階でよい機会になると思われる。 未刊行である博士論文を単著としてまとめていくうえで、加筆した拙稿を新たな章として組み込むことができる。その流れのなかで、本研究課題の一部となる1930年代半ばの棉麦借款に関連する日中経済関係を考察した論考は、京都大学人文科学研究所における共同研究班「20世紀中国史の資料的復元」の論文集に投稿する予定で作業を進める。それらを総合的にまとめて全体を再構築して、加筆・修正し、単著の出版へとつなげていく。 コロナ禍の影響からZoomによる研究会が続いてきたが、今年度は、対面による学会・研究会開催へとコロナ前の状況に戻りつつある。そうした環境改善に伴い、研究の延長期間を生かして、分野を超えた研究者との対話を増やしつつ、1940年4月と10月に成立した錫借款、タングステン借款の検討につながるよう調査・研究を進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響を受けて、海外・国内の渡航ができない期間が続き、旅費が全額残った。研究期間の延長を利用して研究課題の成果を達成するため、国内における報告、および国内・海外における史料調査で旅費として経費を使用する。
|