研究課題/領域番号 |
20K13203
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
貝原 哲生 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 都市文化研究センター研究員 (70597179)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | イスラーム時代初期 / エジプト / アラブ・ムスリム / カルケドン派 / 反カルケドン派 |
研究実績の概要 |
アラブ・ムスリムによる征服後のエジプトにおける、カルケドン派、反カルケドン派(単性論派)各教会の長であるアレクサンドリア総主教とその周辺の活動を分析した。 7世紀末、それまでキリスト教徒の宗教上の諸問題には強い関心を示さなかったアラブ・ムスリムは、エジプト総督アブド・アルアズィーズの下、一転して反カルケドン派を優遇する。これは多くの研究者が首肯するところであり、その要因としてアブド・アルアズィーズの反カルケドン派に対する個人的好意や、ビザンツ帝国との戦争が続く中、在地キリスト教徒の多数を占める同派の支持を得ようとしたことが想定されている。 確かにそれは一理ある。しかし、7世紀末のカルケドン派の存在感もまた否定できない。征服当初、アラブ・ムスリムは統治の円滑化のために旧来の行政機構を温存したが、M. S. A. Mikhailが指摘するように、それゆえにカルケドン派を支持する在俗有力者たちがビザンツ時代と同じ地位に留まり、往々にしてそれは世襲された。彼らの支援もあって、カルケドン派は依然無視できない影響力を維持していたのである。 また、反カルケドン派優遇の理由として、カリフ・アブド・アルマリクの宗教政策も重要である。7世紀末はムスリムとしてのアイデンティティが確立された時期でもあった。ビザンツ帝国と戦ううちにアラブはイスラームとは何かを洗練させていったが、三位一体論に反対の姿勢を確立しつつあった彼らにとってカルケドン派よりも反カルケドン派の教義の方が理解しやすかったに違いない。 だがいずれにせよ、反カルケドン派の春は長くは続かなかった。8世紀初頭には修道士に人頭税が課せられるなどキリスト教徒に対する当局の姿勢は厳しさを増していくが、この宗教政策の転換による影響は反カルケドン派にも等しく降りかかったのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度に購入を予定していた複数の書籍の発刊が遅れ、2021年4月以降にずれ込んだことや、新型コロナウイルス蔓延の影響により、2020年度中に発注した洋書が2021年4月に到着したこと、また購入を計画していた洋書の中に取り寄せ不可となったものもあったため。
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今後の研究の推進方策 |
購入を計画していた書籍の入手が思うように進まなかったため、初年度の研究課題として設定していた、イスラーム時代初期のエジプトにおけるカルケドン派、反カルケドン派各教会の長であるアレクサンドリア総主教とその周辺の活動の考察については、進捗状況に遅れが生じている。 その代わりに、第2年度の考察対象である地方の教会・修道院の活動のうち、初年度中に取り掛かることが可能だったものにはすでに着手している。 今後は、前倒しで進行中の第2年度の研究課題に引き続き取り組むとともに、初年度に入手予定だった書籍が手に入り次第、初年度の研究課題の考察もさらに進め、然るべき雑誌に論文として投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度に購入を予定していた複数の書籍の発刊が遅れ、2021年4月以降にずれ込んだことや、新型コロナウイルス蔓延の影響により、2020年度中に発注した洋書が2021年4月に到着し、事務手続き上、2021年度分として計上することになったこと(10点、計130,244円)、また購入を計画していた洋書の中には取り寄せることができなくなったものもあったため、次年度使用額が生じた。 これら未入手の書籍は発売され次第、あるいは取り寄せ可能となり次第、速やかに購入手続きを行う。
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