研究課題/領域番号 |
20K13203
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
貝原 哲生 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 都市文化研究センター研究員 (70597179)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | イスラーム時代初期 / エジプト / アラブ・ムスリム / カルケドン派 / 反カルケドン派 |
研究実績の概要 |
7世紀のエジプトにおけるアラブ・ムスリムの対キリスト教政策について検討した。エジプト征服後、彼らは統治の円滑さを考慮して旧体制下での行政機構とその構成員を維持、運用したが、教会組織も利用した。この地にはカルケドン派や反カルケドン派(単性論派)をはじめ、いくつかの宗派が存在していた。先行研究では、当初、彼らの関係にアラブ・ムスリムは無関心であったが、アブド・アルアズィーズのエジプト総督期(685-705年)に反カルケドン派優遇に転じたとされ、その要因としては、反カルケドン派に対する彼の個人的好意や、ビザンツ帝国との戦争が続く中、在地キリスト教徒の多数を占める同派の支持を得ようとしたことが挙げられている。 一方、カルケドン派は後ろ盾であったビザンツ軍の撤退にともない衰退したとされるが、実際にはアラブ・ムスリムの支配下においても彼らは無視できない存在であった。 アブド・アルアズィーズによる方針転換の背景としては、反カルケドン派の変化も考慮すべきである。ビザンツ時代の同派は肩書のみの主教を頭数そろえただけで、行政上果たしうる役割には期待できなかった。しかし、7世紀末には初めて反カルケドン派の教会会議が開催されたように、アラブ・ムスリム支配下において同派の組織化は進展した。また、反カルケドン派は、同派のアレクサンドリア総主教の選出にあたってエジプト総督が最終的な人事権を掌握することに同意するなど、いち早く新たな支配者に迎合する姿勢も示している。そのため、アブド・アルアズィーズはこのような反カルケドン派に利用価値を見出したのである。 ただし、反カルケドン派の手による聖人伝においては、同派の総主教とアブド・アルアズィーズとの親密な関係が強調される一方で、他派に比べて厚遇された、あるいは他派が弾圧されたことを示す具体例が見られないため、反カルケドン派が優遇されたと考えるのは早計であろう。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
新型コロナウイルス蔓延の影響で、予定していた海外での資料調査を実施することができなかった。そのため、科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)補助事業の期間延長を申請し、承認された。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の研究課題として設定していた、カルケドン派、反カルケドン派各教会の長であるアレクサンドリア総主教とその周辺の活動については、日本ビザンツ学会第19回大会(2022年3月28日、主催・奈良大学)での報告をもとにした論文を、その内容に適した雑誌に投稿する。 また、第2年度の考察対象であったエジプト各地方の教会・修道院の活動については、現在入手済みの資料をもとに研究を進めるとともに、新型コロナウイルスを取り巻く状況が改善し次第、海外での資料調査の実施を予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響で海外での資料調査が実施できなかったため、次年度使用額が生じた。海外での資料調査が可能な状況になり次第、これを実施する予定である。
|