研究課題/領域番号 |
20K13205
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
石野 智大 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (00770968)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 唐 / 基層社会 / 村落社会 / 戸籍制度 / 身分制度 |
研究実績の概要 |
本年度は新型感染症流行の影響で海外研究機関等での史料調査は実施できず、いまだその見通しも立っていない。そのため、昨年度より継続している史資料の収集・整理・分析作業を進めながら、唐代の地方支配制度やその背後の基層社会に関わる研究を実施した。その内容は、大きくは以下の三つにまとめられる。 一つ目は唐代村落社会の内部構造やその構成員を探ったものであり、とくに「郷望」と呼ばれる在地有力者に焦点を当てた研究である。先に実施した清代拓本の調査を踏まえて当分野の重要史料である玄宗期「金剛経碑」(佚碑)の復原を行い、その復原した碑文の分析をもとに「郷望」の特徴を明らかにした。具体的な分析結果は、論文「唐代玄宗期の郷望と村落社会」として『九州大学東洋史論集』第49号に公表した。 二つ目は唐代の地方支配で重要な機能を担った戸籍制度の検討である。その際には、まず戸籍制度の通時代的な推移を把握し、そのなかで唐代戸籍制度の理解を深めることを意識した。本年度は未公刊となったが、前近代中国の戸籍制度の変遷をまとめた文章を執筆し、提出している。あわせて、唐代の戸籍編造にも関わる貌閲の文書を初めて紹介・分析した張栄強・張慧芬共著の中国語論文を翻訳し、「新疆吐魯番新出の唐代貌閲文書について」として『明大アジア史論集』第26号に発表した。 三つ目は唐代の基層社会を理解する上でも不可欠な身分制度に関する検討である。当分野の研究は長らく低調であったが、近年に山根清志『唐王朝の身分制支配と「百姓」』(汲古書院)の重要な研究書がまとめられた。そのため、唐代身分制度研究の体系的な把握を行いながら本書の読解と批評を行い、それを手がかりとして身分制度と戸籍制度・郷里制度・鄰保制度などとの関わりを考察した。その成果の一部は、「書評 山根清志著『唐王朝の身分制支配と「百姓」』」として『史学雑誌』第131編第2号に公表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は当初予定していたよりも順調に研究が進み、複数の方面から唐代地方支配制度の内実を明らかにする成果が出た。地方行政制度や村落制度などの行政的な側面に加え、その他の非行政的な側面から基層社会の研究が進展したのも重要な意味を持つ。ただし、昨年度のコロナウイルス流行拡大以降に生じた作業の遅れを十分に取り戻すまでには至っていない。そのため、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度も感染症拡大の影響で海外調査の実施は難しいと考えられるため、現在までに調査・収集した史資料の分析を優先して行い、具体的な成果の公表に繋げていく。その際にはこれまでと同様、新出史料のみならず、既存の石刻史料・文献史料それぞれの読み直しを行うことで、先行研究の理解を修正し、唐代地方支配制度の再考を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
学外での活動に制約があるなか、研究を行うために購入必要な史料集や研究書の点数は大きく増加した。その一方で、昨年同様に海外研究機関での調査は実施できず、学会や研究会も多くがオンラインで開催され、当初予定した旅費は使用していない。この結果として次年度使用額が生じた。次年度はそれらを主に図書購入費に充てる予定である。
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