本年度もこれまでと同様に、唐代地方支配制度の法的・制度的枠組みを踏まえつつ、その実際面を明らかにする作業を進めた。新型コロナウイルス感染症の影響は大きく、本年度も海外研究機関等での史料調査は困難であったため、先に調査・整理していた唐代石刻史料の分析や近年に刊行された大型史料集の精査などをもとに、本研究を実施した。 本年度前半では、昨年度にやや遅れが出ていた石刻史料(墓誌・碑文・造像銘など)の事例収集・整理作業を重点的に行いながら、あわせて既存の文献史料の読み直しを進めた。これらは研究の基礎となる作業であるが、それを進める過程で当初予想していなかった複数の重要な発見があった。 その一つは、これまで正確な録文がなく、具体的な検討も加えられてこなかった河北省の唐代大型石刻題記から、郷長が廃止されたとされる唐初より後に「郷長」と「里正」が同地域でともに登場する事例が見出されたことである。唐代の郷長置廃に関する代表者の指摘と密接に関わる内容であり、従来の唐代「郷」制の理解に再考を迫るものともなろう。 もう一つは、唐代雑任の任用をめぐる法的枠組みと実態が、これまで注目されてこなかった文献史料・出土史料の検討を通して、それぞれ明確になったことである。本研究で重要視してきた石刻題記に加え、墓誌・墓碑などにも関連する事例が散見するのに気づき、本年度後半では雑任事例の収集・分析作業を集中して進めた。その結果として、唐代雑任の任用の実態を通して基層社会の人的結合の制度的背景が明らかになってきた。 いずれも唐代の地方行政制度や村落制度を含む地方支配制度の実態解明に結びつく内容であり、今後に分析結果をまとめて成果を公表する予定である。
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