広範な領域を持つ前近代中国の王朝支配を考えるうえでは、中央の政策的意向や法制的枠組みにとどまらず、その支配の場であり、人びとの生活の場でもあった基層社会に目を向ける必要がある。しかし、史料的な制約なども影響して、唐代史研究においては当分野の研究が十分に進展してこなかった。このようななか、本研究では従来注目されてこなかった石刻題記などを利用し、その新たな分析手法を提示しつつ、唐代地方支配制度の理解を前進させた。また、基層社会における人的結合の制度的背景を明らかにし得たことは、人的ネットワークが重視される中国社会の特質を考えることにも繋がる成果と言えよう。
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