研究期間の開始後からコロナ・パンデミックが始まり、研究計画で予定されていた中国でのフィールドワークが行えなくなった。しかし、研究に必要な資料を積極的に収集することで、北魏墓誌の最新の目録を作成することができた。そのデータベースを活用し、最終年度は学会報告7件(うち国際学会2件)行い、論文2本を発表することができた。さらに、渡航が可能になったことで香港での現地での資料調査を行うことができた。 パンデミックという予期せぬ出来事があったが、テキストマイニング技術についてはオンラインもしくはオンサイトの学会に積極的に参加報告をすることで習熟することができた。テキストマイニング技術についての論文も発表することができた。 また資料収集や技術を積み重ねた上で、歴史学研究としての論文についても発表することができた。具体的には「北魏女性墓誌の特徴語の抽出および語義考証」および「北魏男性墓誌の特徴語の抽出および語義考証」という二本の論考において、北魏墓誌の銘辞に表現されるジェンダーロールについて考察を行った。本研究では、死者を理想の女性・男性として称賛するために墓誌に書かれた詩文である銘辞を集め、その言説が魏晋南北朝期においていかなる特徴を持つかを明らかにした。 今後の研究についても、その言説がどのように作られたのかを明らかにすることで、「なぜ東アジアにおいて女性が男性よりも不利になるジェンダー秩序が維持されてきたのか」という問いの下、歴史上社会規範に大きな変化が生じた北魏においてもなお男性の優位が維持され続けるシステムを解明するという方向性を見出すことができた。
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