研究課題/領域番号 |
20K13210
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
梶 さやか 岩手大学, 人文社会科学部, 准教授 (70555408)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ナショナリズム / ポーランド / リトアニア / ベラルーシ / ロシア帝国 / 一月蜂起 |
研究実績の概要 |
本研究は、ロシア帝国に支配された旧ポーランド=リトアニア領における、ポーランド、リトアニア、ベラルーシ等の諸民族のナショナリズムの形成・展開ならびにその相互関係の諸側面を、19世紀後半の対ロシア一月蜂起とその記憶を手掛かりに明らかにする。 1年目は資料収集が行えなかったため、研究実施計画の予定を変更し、ポーランド社会における一月蜂起の記憶を、ロシア当局による蜂起鎮圧やその後の北西部諸県やポーランド王国に対する統治方針の転換とともに考察した。 その結果、一般にポーランドの社会が、分割国に対する武装蜂起路線から、社会の実力の底上げを目指して経済・教育事業を重視する「有機的労働」路線へと変化したとされる一月蜂起敗北後の時代において、蜂起に関する愛国的な言説の基盤が同時に形成されていたことが分かった。ロシア帝国の恭順派貴族やオーストリア帝国の保守派は、蜂起をポーランド社会に混乱をもたらしたものとして批判的に捉えた。しかし、カトリック聖職者の蜂起参加に対しては、反蜂起の立場を取るポーランドの著述家からは批判されたが、蜂起参加者などからの一定の支持や称賛が続いていた。 こうした言説は、ロシア当局、とりわけ蜂起を鎮圧したヴィルノ総督ムラヴィヨフが、カトリック教会とその聖職者に対する監視と処罰を厳格化し、処刑・処罰された聖職者が目立ったこととも相俟って、一月蜂起にまつわる愛国的なポーランドの言説を形作っていく。この言説が、ポーランド性とカトリシズムの結合という蜂起の実態から離れたナショナリスティックな言説として登場する時期や経緯については別途考察が必要だが、ロシアの蜂起鎮圧方法とその後の北西部諸県における脱ポーランド化政策が、同地域のポーランド以外の諸民族の自立化を促したほか、ポーランドの愛国的な言説自体の形成にも大きな影響を与えた可能性が高いことなどが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの感染拡大とそれに伴う移動・渡航の制限のため、計画していたような資料収集等を目的とした国内・国外の出張が実施できず、また国外からの書籍の購入にも時間がかかっているため、当初の研究計画よりも作業が遅れている。現段階では利用可能な資料が、本研究を開始する以前から有していた資料や、インターネット上で公開されているデジタル化された資料、国内図書館から貸借可能なものなどに限られているため、考察・検討を進められるテーマが当初予定していたものから変更・限定されている。今後も当面こうした状況が続くと予想されることから、検討するテーマを適宜変更しながら、研究を進めていかざるを得ない。 一方でロシア帝国による一月蜂起鎮圧の実態やムラヴィヨフの鎮圧方法・統治方針などを合わせて考察したことで、当初の予想以上に、ポーランドの一月蜂起の記憶とロシア帝国による鎮圧方針が密接に絡み合っていることが判明し、この点は大きな成果であった。 これらを合わせて、やや遅れているという状況判断としたい。
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今後の研究の推進方策 |
当面新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、国内・国外への出張が思うように行えない状況や、海外からの書籍購入の輸送に時間がかかる状況が続くと予想される。そのため、検討するテーマを適宜変更しながら、その時点で利用可能な資料を用いて研究を進めていかざるを得ない。 また、インターネットを用いた国内外の研究者との交流やワークショップなどを通じて、研究交流に努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により、予定していた国内・国外への出張が困難になったり、国外からの書籍の輸送が一時困難になったりしたため、旅費や書籍購入等のための物品費に残額が生じた。こうした状況はしばらく続くと考えられるが、国外の書店との通信を綿密にとって円滑な資料購入に努めたり、さらに長期間出張できない場合はワークショップの開催などの代替手段を講じたりすることで、効果的な予算執行を図っていく。
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