研究課題/領域番号 |
20K13214
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
南 祐三 富山大学, 学術研究部人文科学系, 准教授 (50633450)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 対独協力 / フランス / 粛清裁判 / 第二次世界大戦 / 第一次世界大戦 / ナショナリズム |
研究実績の概要 |
2020年度は、コロナ禍に伴う渡航禁止措置によりフランスでの史料蒐集・分析が実行できなかった。そこで、国内で実施可能な次の二つの課題と本研究に関連する一つの翻訳作業に取り組んだ。 二つの課題とは、第一に、本テーマに関する研究史の整理である。ここ20年で、エピュラシオンに関わる重要な概念を扱った研究やフランス国内の粛清裁判だけでなく、国際軍事裁判の問題も含めて体系的に粛清を扱った重要な文献が立て続けにフランスで発表されており、それらの整理を行った。 第二に、第二次世界大戦期に対独協力者となるグループの、それ以前の時期におけるドイツ観の分析である。1944年以降のエピュラシオンの対象者には、ペタンを支持する多くの右翼が含まれていたが、彼らの対独姿勢はどのように変容しているのか。この疑問を明らかにすべく、ヴィシー派の代表格アクシオン・フランセーズの外交問題専門家ジャック・バンヴィルの第一次世界大戦時におけるドイツ観を解明した。粛清裁判にかけられたアクシオン・フランセーズのメンバーは自分が一貫してドイツを敵とみなしていたことを法廷で主張している。この分析は、その真偽を実証的に確かめる作業として位置づけられる。成果は、査読付きの論文にまとめ発表した。 次に、翻訳作業が挙げられる。具体的には、代表的なフランス現代史研究者アンリ・ルソーによる現代史と記憶に関する考察の書(Henry Rousso, Face au passe : Essais sur la memoire contemporaine, Belin, 2016)の翻訳に共訳者として携わった。ヴィシー時代とアルジェリア戦争の記憶の比較や、対独協力者あるいはホロコースト加担者に対する裁判の受容など、20世紀後半を中心とする時期の歴史認識問題を扱う同書からは、本研究にとっても有益な示唆を存分に得ることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初計画していた2020年度の主たる取り組みは、フランス、セーヌ県での史料調査・史料分析であったが、コロナ禍により渡仏することができず、国内で実行可能な作業に専念するしかなかった。したがって、本課題の中核となる文書館史料の分析には一切着手できず、進捗状況は遅れているといわざるを得ない。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度フランスに行けることを前提とすれば、遅れている史料蒐集に努めることが最優先事項となる。セーヌ県の特別法廷のアーカイヴを収集し、少しでも読み進める必要がある。 同時に、引き続き渡仏が難しい事態を想定して、国内で実行可能な次の二つの取り組みを計画している。一つは、入手済みの史料や文献を用いて、本研究が注目するエピュラシオンが設定した罪状の一つである「国家反逆罪」に関する分析を進めることである。具体的には、1945年1月にローヌ県特別法廷で開廷したアクシオン・フランセーズの二人の代表者シャルル・モーラスとモーリス・ピュジョーに対する粛清裁判の検証を準備している。両者はともにヴィシー体制の黒幕とみなされ、裁判にかけられたが、ピュジョーが5年の禁固刑で済まされた一方で、モーラスは無期懲役刑および国籍剥奪刑に処されている。両者に対する審理の分析をつうじて、エピュラシオンにおいて裁く側が掲げた「正義」の基準を特定し、さらに本研究課題が注目する「国家反逆罪」の具体的内容やその背景にある思想に関する考察を試みたい。その成果は、ヨーロッパ近現代史ないしフランス史に関連するいずれかの学会・研究会で報告し、さらに査読誌で論文として発表する予定である。 もう一つは、本研究に関連する研究書の翻訳である。フランスにおいて1944年~1949年の粛清裁判は、逆説的に、その政治的利用を非難する右翼の復活を促した。そうした第二次世界大戦後の右翼の台頭に注目したフランス語の研究書の翻訳に携わる予定である。この翻訳作業は「1944~1949年の粛清から1951~1953年の大赦へ」という歴史的展開を理解するうえで有益な取り組みになることが見込まれる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年度予定していたフランスへの渡航が実現されなかったので、基本的にはその分の費用がそのまま次年度に繰り越されるかたちとなった。 繰り越された分の費用は、フランスへの旅費や滞在費として使用する予定である。
|