研究課題/領域番号 |
20K13216
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研究機関 | 八戸工業高等専門学校 |
研究代表者 |
佐伯 彩 八戸工業高等専門学校, その他部局等, 助教 (20840242)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ポーランド人議員 / ガリツィア / オーストリア帝国 |
研究実績の概要 |
研究2年度は、前年度の研究を踏まえて、対象としていたポーランド人議員フランチシェク・ヤン・スモルカについて考察した。彼の手稿史料と、さらに、ポーランドのヤギェウォ大学附属図書館において提示されている刊行史料などを通じてスモルカのガリツィアの政治的立場に対する考え、オーストリアにおける政治的立場について分析した。そして、これらの分析結果を『寧楽史苑』において発表した。 本研究を通じて明らかにしたことは、スモルカが帝国の国制が再構築された1867年においても頑強に連邦制を主張した政治家だったということである。彼はガリツィアの自治やその政治的立場の保障はオーストリアの連邦制における領邦間の対等な関係においてはじめて成立すると考えていた。同時に、ガリツィアはオーストリア帝国に併合されたのが遅かった。ゆえに、ポーランド分割が行われた1772年時点で、各領邦がオーストリアとの間で取り交わしていたプラグマティーシェ・ザンクツィオンを取り交わしていないということに不平等性を感じていた。そのため、彼は連邦制を通じてその不平等さを解消していくべきであると考えていることが分かった。 一方で、彼の考えとガリツィア内のポーランド人議員たちの間でのオーストリアとの政治的関係にかかわる認識の温度差も生じていたとこは、すでに先行研究において証明されている。こうした相互認識のズレなども踏まえて、ポーランド人議員たちとの政治的関係の認識における調整役を担っていたガリツィア総督府の考えを明らかにしていくことが今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度において、前年同様に、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、夏季・冬季に予定していたウクライナ、ポーランド、オーストリアなどでの資料調査へ行くことができないことが大きな問題となった。また、着任後の労働環境の整備も続いていたため、研究が大幅に遅れることになってしまった。そのため、作成した論文も2年前に入手した史料とインターネットで閲覧可能な史料に限定して研究をせざるを得ない状態になった。 その他の研究面では、現在、歴史教育関係で交流を持っている高校教員との間で「歴史総合」にかかわる教材作りをしており、論文執筆や調査研究にかけようと考えていた時間を教材研究と教育実践論文に回してしまったのも遅れてしまった原因である。 そして、現在帝国書院から来年度の資料集において現在注目のトピックとなっているウクライナ問題に関する執筆依頼を受けている。さらに、ガリツィアに関してもその概説書に関する執筆依頼を受けている。 そのため、今後は研究のエフォートをさらに強く意識したうえで、口頭発表および『西洋史学』などへの論文執筆をすすめていかなければならない状況である。
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今後の研究の推進方策 |
本来であれば3年目は第3段階から第4段階に進み、ガリツィア・オーストリア・ボヘミアの3領邦におけるガリツィアの政治活動に対する認識を明らかにするはずであった。しかし、現在、第2段階のガリツィア総督であるゴウホフスキとガリツィア総督府、そして、ポーランド人議員との政治的関係にとどまっている。 現在、不足していると考えられる史料などをオーストリア国立文書館やポーランドのオソリンスキ国立文書館、ヤギェウォ大学附属図書館から入手した。これを分析しているところである。また、知見を得ようと考えていた先行研究者であるスタニスワフ・ピヤイ氏とも連絡を取り、研究に関する意見交流を進めている。 今後、秋までに研究会や学会などでゴウホフスキに関する研究について口頭発表を行い、論文化を進めていくことを予定している。論文に関しては当初『東欧史研究』を予定していたが、現在は発行回数の多い『西洋史学』への投稿を考えている。 渡航については、新型コロナウィルスの問題だけでなく2月から発生しているウクライナでの戦闘状態を鑑みた場合、本年のヨーロッパへの渡航もほぼ絶望的であると考えている。そこで、現在連絡を取り合っているピヤイ氏などと引き続きメールなどを通じて緊密に意見交換をし、現在の研究に関して得られた知見を、口頭報告や論文に還元していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの発生により海外渡航ができない状態にあった。そのため、旅費として計上していた分が使用できていない。また、他府県での研究会に関しても、オンライン研究会が開催されているため旅費が必要ではない状態にあった。 本年度は、さらにウクライナでの戦闘状態、ポーランドへの難民の流入が生じているため、史料収集の対象地への渡航ができるかどうかわからない。そこで、本年度は、ハイブリッド型での研究会などに積極的に参加していこうと考えている。 また、史料収集や研究者交流に関しては、時機を見てできるだけ渡航できるように取り計らっていくものの、国際情勢が芳しくない場合、オーストリア国立文書館、ポーランドのオソリンスキ国立文書館、ヤギェウォ大学附属図書館、ポーランド国立図書館と緊密に連絡を取りあい、史料を送付してもらう。それに関連した送付代に使用していくことを予定している。
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