研究課題/領域番号 |
20K13224
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
舘 葉月 武蔵大学, 人文学部, 准教授 (50803102)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 赤十字国際委員会 / 赤十字運動 / 第一次世界大戦 / 国際人道法 / 感情史 / アンリ・デュナン / ギュスタヴ・モワニエ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、両大戦間期の国際赤十字運動の進展と国際人道法が整備される過程を検証し、「人道主義」が国際社会における主要な規範となり、それに基づく様々な活動が活発化する過程と、その限界・阻害要因を明らかにすることである。①「人道主義」概念の整理、②国際赤十字運動の組織化と国際法締結準備のプロセス、 ③人道問題をめぐる感情の動員と制御の分析を、目的達成のための具体的な課題として設定している。 本年度は、海外における史料収集が困難であったため、赤十字運動の創設者であるアンリ・デュナンおよびギュスタヴ・モワニエの著作の検討を中心的に行った。ベストセラーとなったデュナン『ソルフェリーノの思い出』を読み直すことで、本書がいかに短期間に人道的感情を喚起することに成功したのかを、そのナラティヴの構成および19世紀の博愛主義的・改良主義的時代背景から分析した。さらに、赤十字運動が産声を上げた1860年代と、複数の戦争の試練を経た70年代以降の人道的感情をめぐるICRCの言説を比較すると、人道的感情を喚起することでまずは運動を軌道に乗せようとする姿勢から、運動の組織化と国際法の発展のそれぞれにおいて異なる性質の感情を動員する方向へと、モワニエの議論の洗練がみてとれることが明らかになった。以上の検証結果をまとめた論文が、2023年度中に刊行される論文集に採録予定である。 今後は、こうした19世紀後半に始動した国際赤十字運動が、それ以降の時代において人道的感情の動員を以下に戦略的に促そうとしたのかという③の課題をさらに検証するとともに、それがいかなる活動や国際法の整備に繋がったのかという②の課題に取り組みたい。そのうえで、①「人道主義」概念の整理を改めて行うつもりである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度は、英語での共著が一点、「国際赤十字・赤新月運動」の項目を担当した中辞典が1点刊行された。そのほか、論文を2本脱稿し、現在校正作業を進めている。一方で、検討していた海外での資料調査を、夏季はコロナ禍のため実施できず、春季も所属先変更の準備のため時間を捻出できず、実施できなかった。そのため、研究の進捗状況はやや遅れていると言わざるを得ない。一方で、手元にある資料を集中して扱う時間が取れたことで、「研究実績の概要」に記した成果を得ることができたとともに、研究の最終年度に向けた見通しも明確化された。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の課題である①「人道主義」概念の整理、②国際赤十字運動の組織化と国際法締結準備のプロセス、 ③人道問題をめぐる感情の動員と制御の分析について、それぞれ研究を進めていく。今年度は、研究対象時期の国際赤十字運動が救援対象者に提供しようとしたもの/できたものを、物質面・精神面から具体的に検証することで、②の課題にアプローチしたい。 2023年8月および2024年3月にフランスおよびスイスで史料収集を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
フランスおよびスイスでの資料調査を実施できなかったため。2023年度は実施する予定である。
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