本研究は、鹿児島県南種子町に所在する広田遺跡から出土した人骨資料を分析の対象として、歯牙のストロンチウム(Sr)同位体比分析をおこない、当時の人びとの移動の様相を明らかにする。 本年度は、これまで実施してきた広田遺跡の下層から出土した資料の分析の成果を学術誌に投稿するための準備を進めてきた。具体的には、Sr同位体比分析によって広田遺跡周辺の地質環境とは異なる地域からの移入者と考えられる個体が出土した墓の構造や副葬品等の考古学的情報を整理し、在地の人びととの違いを検討した。また、これまでの先行研究において広田遺跡から出土した人骨は、その脳頭蓋の形態が前後方向に著しく扁平(短頭)であることから、それは意図的な変形(頭蓋変形)である可能性が指摘されていた。近年、広田遺跡出土人骨の脳頭蓋形態について、三次元による形態研究がおこなわれ、その著しい短頭性が意図的な頭蓋変形であることが示された。本研究のSr同位体比分析によって明らかにされた他の地域からの移入者の中にも、意図的な頭蓋変形の可能性がある個体が含まれていた。そこで、その個体の由来を明らかにするために、広田遺跡が所在する種子島周辺の地域、具体的には九州から琉球列島にかけての同時代集団の頭蓋形質の形態研究をおこなった。その結果、九州の同時代にあたる古墳時代において広田遺跡にみられるような顕著な短頭性を持つ集団は確認できなかった。一方、琉球列島においては、いくつかの集団で短頭傾向が強いことが確認され、当該個体は琉球列島のいずれかの島からの移入者である可能性が高くなった。以上の成果をまとめて、学術誌に投稿する。
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