研究課題
世界各地へ拡散した初期の現生人類は、各地の環境に応じて多様な技術や行動を柔軟に生み出した。約3.8万年前頃に日本列島へ到達・定着した現生人類もまた列島の冷温帯の森林的環境に適応的な技術や行動を組織していた可能性が高い。刃部磨製石斧をはじめとする後期旧石器時代前半期の各種石器はどのような機能・用途をもっていたのか。本研究では基礎的な実験研究と遺跡資料の石器使用痕分析、そして遺跡発掘を通して、列島に最初期に到達した現生人類が伐採から木製道具製作へといたる木質資源の組織的な加工技術を発達させていた可能性を検証する。2023年度では3つの研究項目:(1)刃部磨製石斧の実験研究の論文化、(2)遺跡資料の石器使用痕分析、(3)長野県大久保南遺跡の発掘、を実施した。(1)2020年度から開始した刃部磨製石斧の実験結果を整理し、木の伐採を示す信頼可能な痕跡の抽出を試みた。その結果、石斧の刃部に生じる微視的および巨視的痕跡を組み合わせることで、木の伐採に用いた石斧を識別できることを明らかにした。この成果を国際ジャーナルに投稿し、掲載された。(2)について、7遺跡:山形県清水西遺跡、岩手県地蔵田遺跡、上萩森遺跡、新潟県坂ノ沢C遺跡、前山遺跡、埼玉県サガヤマ遺跡、中東第2地点・第3地点、東京都高井戸東遺跡から出土した前半期石器群を対象に、使用痕分析を実施した。分析の結果、刃部磨製石斧や台形様石器、二次加工剥片、微細剥離痕剥片などに使用によって生じた痕跡を確認した。(3)について、長野県大久保南遺跡の発掘を実施し、27平方メートルの調査範囲から炭化物138点、石器71点を回収した。石器の形態学的特徴はこの遺跡が後期旧石器時代前半期に相当することを示している。
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Journal of Archaeological Science
巻: 163 ページ: 105891~105891
10.1016/j.jas.2023.105891
長野県旧石器研究交流会2023予稿集
巻: なし ページ: 4-8