本研究では縄文時代の石材獲得と石器流通の解明を目的とし、その議論のためのデータとして山梨県を中心として黒曜石製石器および水晶製石器の原産地推定を実施した。石器の原産地推定にあたって本研究では、可搬型蛍光X線分析装置を利用した黒曜石原産地推定手法を開発し、水晶原産地推定におけるデータ解析法を改良した。 2021年度までに甲府盆地を中心に黒曜石約6000点と水晶約400点の原産地推定を実施し、今年度は甲府盆地内と大月・都留・富士吉田地域の遺跡、東京都八王子市の遺跡を対象に黒曜石約800点と水晶約40点の原産地推定を実施した。 上記の分析結果にもとづいて、信州において諏訪エリアの黒曜石採掘がはじまったとされる縄文時代前期後半(諸磯式期)を中心に、山梨地域の黒曜石流通について検討した。その結果八ヶ岳および甲府盆地の遺跡では諸磯a~c期全体にわたり、諏訪エリアの黒曜石が最も高い重量比率を示した。すなわち、採掘活動以前から諏訪エリアの黒曜石が甲府盆地に大量に供給されていたことが明らかになった。さらに、その重量比率の変化として、諸磯期の間に徐々に増加することと、黒曜石採掘がはじまった諸磯c期では90%以上を示すことが確認できた。 甲府盆地以東への黒曜石の供給については諸磯a期および諸磯b期での比較に限定されるが、「甲府盆地」「大月・都留・富士吉田地域」「八王子地域」の順で信州系黒曜石の供給量が減少することが確認できた。また、甲府盆地外では伊豆や神津島産の黒曜石の占有率が甲府盆地よりも高いことが確認できた。 水晶については100点を超える遺物の出土は原産地から15km以内に限定され、甲府盆地東部の竹森鉱床産水晶が最も広く供給されたことが確認できた。
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