博物館等に保管されている生物標本を用いたDNA分析を行う際には、残存するDNAの量や断片サイズが分析の成功可能性に大きく関わっている。しかし、どのような条件下でDNAの分解がどの程度の早さで進むのかについては、ほとんど定量的な研究が行われていなかった。そこで、生物標本の分析可能性を推定する基準を得るために、経過時間と保存条件に応じたDNAの半減期を解明することを目的に研究を行った。 試料としてはニワトリの羽毛を用い、さまざまな温湿度・光等条件下に長期間曝露し、DNAの残存量をモニタリングした。最終年度にあたる2022年度は、追加実験として定量PCR法を用いた特定の領域・サイズにおけるDNA残存量の測定を行い、それぞれの条件下におけるDNA半減期を推算するために、DNA残存量と各断片サイズについての解析を行った。 その結果、DNA半減期は保存環境と断片サイズに依存すること、また、経過時間の早い段階では見かけ上の半減期が非常に短くなることを確認した。この見かけ上の半減期が変化する現象は、試料のミクロレベルの部位の違いによってDNA損傷速度が異なることが原因と考えられる。実際に、試料の粒度を変えて光に曝露する対象実験によって、均一な状態の試料では理論値に近づくことが確認された。先行研究では、DNA半減期が一定だという前提で解析を行っており、現実的な分析においては誤差が非常に大きくなる可能性がある。また、古い剥製標本を用いることで、より長期的な半減期についても解析を行った。 今回の結果に基づいて、古い標本の年代や保存環境等から残存DNAの状態を推定することで、分析手法の選択の目安になるなど、より効率的・確実な分析が可能になると期待される。
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