秋田県の鷹巣盆地と十勝平野南部沿岸の堆積性の河成段丘を対象として,ルミネッセンス年代測定を用いて最終氷期の気候変動に対する河川の応答を明らかにした.どちらの地域においても,河成段丘堆積物に対して多数のルミネッセンス年代測定用の試料を採取し,高解像度で河床変動を復元した.鷹巣盆地では長石のpulsed IR,IRSL,post-IR IRSL年代の比較をおこなった.長石のpost-IR IRSL信号はリセットが不十分であり堆積年代を過大評価しており,また,pulsed IRはフェーディング補正が過大評価であり,フェーディング補正後のIRSL年代が正しい堆積年代であると考えられた.鷹巣盆地では約9万年前および約6万年前に河床が上昇したことが明らかとなった.これらの時期には東アジア夏季モンスーンの強度が弱化することで降水量が低下し,河川の流量が土砂供給量よりも相対的に減少することで河床が上昇したと推測された.十勝平野南部沿岸の河成段丘においても,鷹巣盆地と同じ時期に河床が上昇したことが明らかとなった.また,十勝平野では約6万年前に下刻が生じた後,6~2万年前の間に緩やかに河床が上昇したことが明らかとなった.本研究ではルミネッセンス年代測定により堆積物の堆積年代を直接明らかにすることで,これまでの研究においておこなわれてきたテフラ(火山灰)による編年では解明できなかった,数万年スケールの河床変動と気候変動との関係を明らかにすることができ,当初の目標を十分に達成することができた.
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