研究課題/領域番号 |
20K13264
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
キーナー ヨハネス 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (50825784)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 大阪 / ウィーン / ホームレス / 生活困窮者 / インナーシティ / ケアの空間 / 支援団体 / 住宅政策 |
研究実績の概要 |
昨年度に整理した3つの課題の中で、今年度「インナーシティ」と「ケアの空間」という2つの課題に特に注目していた。「インナーシティ」に関しては大阪市西成区を事例にして、その発展を政策から議論し、3つの異なる期を洗い出した。第1期(19世紀末から1950年代)には、主に排除的な性格を持つ政策がインナーシティの発展に寄与したが、第2期(1950年代半ばから1990年代前半)には、社会運動や日雇い労働者の暴動に対応した政府の直接介入が優勢になった。第3期(1990年代後半から現在)では、こうした政府による直接的な介入は徐々に後退し、地域コミュニティやNPOなどの市民組織、市場などが福祉提供にますます動員され、インナーシティを形成する重要な要素になっている。 「ケアの空間」に関しては『戦略2022』によるウィーン市のホームレス政策の改革を整理し、新しく導入された方針(①迅速かつ直接的支援、②居住の優先、③柔軟性と継続性、④自己決定とプライバシー)と支援体制の再編(6分野)について明らかにした。しかし、その一つの分野である恒常支援付き居住からすると、『戦略2022』による新しい方針は支援団体と十分共有されていないこと、または利用者層の変化により支援団体のスタッフの負担が増加してしまうという2つの課題が明らかになった。 さらに「ケアの空間」をロンドン、マイアミ、大阪の事例をもとに、コモニングの日常的な実践と、サービスハブが養育、ケア、連帯の空間として都市で果たす役割に焦点を当てた。その結果は複雑であった。一方、サービスハブは生活困窮者の自由な生存を可能にし、資本主義から大きく外れたところだったため、都市の一部の空間が脱商品化されて、周縁的なものになったと考えられる。他方、サービスハブは変革をもたらす潜在的な機能もあるが、それは限定的なものであったと明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度に予定していた大阪市の福祉サービス担い手調査、大阪市とウィーン市の福祉サービス利用者調査、そして福祉サービス担い手の追加調査のいずれも実施できなかった。本研究と関連するSpringer Natureという出版社のために書いている単著原稿の執筆にかけた時間は思ったより長かったため、調査が実施できなかった。調査が遅れていると判断した。 そして、国内と国際、2つの口頭報告を予定していた。実際に行った報告の両方は国際であり、Symposium “Neighborhood Transformation in East Asian Cities" (IDE-JETRO, Japan)とElastiCities Research Cluster (Sunway University)であった。いずれの場合にも、大阪市のインナーシティについて報告を行った。口頭報告はおおむね順調に進展していると判断した。 最後、国内と国際の雑誌に論文を投稿する予定もあった。ウィーン市の福祉サービス担い手の調査結果の一部を『空間・社会・地理思想』という国内の雑誌に投稿した。そして、大阪市の福祉担い手を含めてテーマにした論文を連名で『Annals of the American Association of Geographers』という国際の雑誌に投稿した。それに加えて、大阪市のインナーシティと住宅政策についての章を『Diversity of Urban Inclusivity: Perspectives Beyond Gentrification in Advanced City-Regions』という著書に投稿した。論文投稿は当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度に今年度に実施できなかった調査を行う予定である。それは大阪市の福祉サービス担い手調査、大阪市とウィーン市の福祉サービス利用者調査、そして大阪市とウィーン市の福祉サービス担い手の追加調査である。追加調査の対象者は、ウィーン市の場合に市のホームレス支援を管理するFonds Soziales Wienの関係者と、大阪市の場合にあいりん地域の現状を把握されている西成労働福祉センターの関係者になる。それに加えて、大阪市とウィーン市の福祉サービス利用者調査の追加調査も本年度に実施する予定である。 更にもともとの予定と違って、2023年度に予定していた口頭報告と論文報告の代わりにSpringer Natureのための原稿執筆に全力で取り組む予定である。つまり、今年度の研究報告を単著の執筆で行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に次年度使用額が生じた理由は次の通りである。本研究へのコロナの影響を減らすために単著を書くことにして、Springer Natureという出版社と契約を結んだ。しかし、原稿の執筆に必要な時間を確保するために調査の実施に影響が出てしまい、今年度に実施できなかった調査を2023年度に実施するようになった。 今年度に次年度使用額の使用計画は次の通りである。大阪市の福祉サービス担い手の調査とウィーン市と大阪市の福祉サービス利用者の調査を行うために40万円を利用する予定である。それは交通費と共に、両市12泊の滞在費を含む。さらに、30件のインタビューの文字起こしにも40万円を利用する予定である。そして、残りの80万円を単著原稿の英語校正のために利用する予定である。母国語は英語ではないため、英語で執筆した原稿のネーティブスピーカー校正が必要になる。本原稿の規模は8万ワーズの程度になる。
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