本研究は、「民俗芸能の演技がいかに創造されているのか」という問いに対し、演技の一回性・即興性を特徴とする俄(にわか)という民俗芸能を対象としたフィールドワークを実施し、演者と観客のやり取り、演技に対する評価のあり方、演技の制作過程などに注目して、「見る-見られる」関係と演技の創造性との具体的な相互関係を考察することを目的とする。 本年度は、これまで大阪府富田林市・熊本県高森町・岐阜県美濃市で実施した現地調査をもとに天理考古学・民俗学談話会や説話伝承学会、日本民俗学会年会にて報告を行った。上演された俄の演目、題材、台詞等について比較検討した結果、熊本県高森町・岐阜県美濃市では時事的な話題を方言や具体的な地名、人物を用いてローカルな文脈に置き換えることで、身近な話としていることが観察できた一方、大阪府富田林市では方言の使用は抑えられ、演目も股旅物や任侠物を題材にした時代物が多い。富田林を舞台としない作品も多く、ローカルな文脈に置くことは高森や美濃と比べてあまり重視されていない。こうした違いの背景として、プロ(専業)の芸人の影響関係があるのではないかと推測した。 そこで、プロ(専業の芸人)による俄と、アマチュア(地域の青年)による俄の双方があるという俄特有の状況が、演技の創造に大きく影響しているという点に注目し、日本民俗学会年会において俄を含めた民俗芸能におけるプロ・アマによる演技の混淆に注目した「交じりあう芸能世界」という分科会を代表者として企画した。
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