研究課題/領域番号 |
20K13284
|
研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
香室 結美 熊本大学, 文書館, 特別研究員 (40806410)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | アーカイブ実践 / 写真 / 歴史性 / メタデータ / メチル水銀中毒事件 / 水俣 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、まず研究計画①各時代における関係写真の意義や読まれ方の歴史化という人類学的課題に取り組んだ。チッソ水俣工場を汚染源とするメチル水銀中毒事件に何らかの形で関係する写真(暫定的に水俣病関係写真と呼ぶ)に関する文献調査、写真の所在・保管・状態調査、写真家とのネットワーク構築および写真を未来に継承するための検討、理論的枠組みの再検討を進め、論文投稿・口頭発表等の準備を行った。同作業により、水俣病関係写真が撮影されてきた歴史的経緯や性質、同写真に付随するメタデータの意義や収集・記録方法、同写真の現代や未来における意味についての考察を進めることができた。 次に研究計画②写真アーカイブズの構築・公開・継承の実践と記録というアーカイブズ実践的課題に取り組んだ。主に1960年代末から1970年代にかけて水俣のメチル水銀中毒事件と水俣で暮らす人々を撮影した写真家・塩田武史氏の遺族と協働し、塩田武史氏ネガフィルムのデジタル化(コンタクトシート作成)・関係資料の整理とデジタル化・メタデータ作成・データ入力・データ公開についての検討、オンライントーク開催、遺族や被写体への聞き取り調査を進めた。上記作業により、塩田氏撮影フィルム・データベース構築と熊本大学文書館内での公開の目処がたった。 また、同年度の熊大文書館の活動により水俣病関係資料を所蔵する複数の機関(主な所在は水俣市)や資料関係者との連携が強まり、本課題の推進がさらに円滑になった。本研究代表者含むメチル水銀中毒事件当事者ではない人々はどのようにして資料やメタデータを収集し、受け入れ、理解し、誰と共にどのようなアーカイブズを構築していくべきか、という本課題における問いのひとつに答えるためには複数の機関や関係者との検討の場が不可欠であるため、重要な成果である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、写真被写体や写真家への聞き取り調査、およびアーカイブズ施設調査と資料収集が十分に行えなかった。そのため、研究成果発表に関わる関係写真の意義や読まれ方の歴史化と理論的再検討の作業が遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
研究計画①文献・資料調査と聞き取り調査を実施しながら学術雑誌への論文投稿と口頭発表を行う。聞き取り調査についてはオンライン利用を工夫・検討する。 研究計画②塩田氏ネガフィルムおよび関係資料のデジタル化を完了させ、データベースを構築し熊大文書館内で公開する。活用方法について遺族や関係者・写真被写体・水俣現地の人々と検討を行う。また、写真アーカイブズの継承に関するオンラインワークショップや研究会を開催し、本課題の成果を水俣現地や写真・資料保存の課題を抱える他地域に広く還元する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
1)新型コロナウイルス感染症拡大により出張が困難になり予定より旅費を使用しなかったこと、2)資料整理・デジタル化に従事する人件費を他予算から確保でき、予定より人件費を使用しなかったことから次年度使用額が生じた。 これらの費用は次年度、人件費・謝金、業者利用による資料デジタル化、データベース構築費、論文校閲費等として使用する計画である。新型コロナウイルス感染症拡大がおさまれば、当初の予定通り旅費としても使用する。
|