令和4年度は以下の課題に取り組んだ。 研究計画①各時代における関係写真の意義や読まれ方の歴史化(人類学的課題) チッソ水俣工場を汚染源とするメチル水銀中毒事件に何らかの形で関係する写真(暫定的に水俣病関係写真と呼ぶ)を撮影してきた写真家・桑原史成と塩田武史に関する文献調査、水俣病関係写真を未来へ継承するための検討会への参加、写真アーカイブズに関する人類学的研究を中心とした理論的枠組みの検討および論文発表・口頭発表を行った。桑原氏と塩田氏の写真に焦点を当てた成果公開により、1960~1970年代までの水俣病関係写真の意義や読まれ方の変化の一部を水俣病事件史に位置づけながら明らかにすることができた。写真家と写真に写る者たちとの関係性の意義、そして関係性自体をアーカイブズ実践を担うものたちが未来に向けて継承・再接続し続ける必要があることを指摘し、水俣病関係写真研究と今後のアーカイブズ実践に向けた理論的基盤を確立できた。 研究計画②写真アーカイブズの構築・公開・継承の実践と記録(アーカイブズ実践的課題) 写真家・塩田武史氏の遺族と協働し、塩田武史氏ネガフィルムのデータベース完成に向けて、デジタル化(簡易コンタクトシート・デジタル画像作成)・関係資料の整理・メタデータ作成(人名、地域名、年代、内容 等)・データ公開についての検討、遺族や被写体への聞き取り調査を行った。データベース公開に向けたプライバシー保護等に関する検討、各種データの補完と入力、公開用機器の整備がほぼ終わり、データベースの公開準備に入った。熊本大学文書館内でのデータベース公開が未達成だが、2023年度内に同館で公開する目途が立っている。水俣を撮影してきた写真家とその遺族たちが設立した一般社団法人「水俣・写真家の眼」と今後も連携し、写真アーカイブズ実践の記録と実践内容の検討を続け、水俣病関係資料の未来への継承に参与する。
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