研究課題/領域番号 |
20K13289
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
村上 志保 明治学院大学, キリスト教研究所, 研究員 (90526790)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中国プロテスタント / 宗教政策 / 国際教会 / グローバル化 / 海帰キリスト教徒 / 華人キリスト教コミュニティ |
研究実績の概要 |
本研究は中国国内のプロテスタント教会および海外華人教会を主な調査対象とし、宗教をとりまく環境のグローバル化の実態、国を越えて移動する信者たちの宗教実践および宗教的アイデンティティの多様化の状況、さらにそれらが中国の政教関係に与える影響について明らかにすることを目的とする。 必要なデータを集めるために、令和2年度は夏と春の年二回アメリカの華人系教会と北京および上海の都市新興教会での調査を行う予定であったが、昨年来の新型コロナウィルスの世界的な感染拡大による海外渡航の制限により、海外での現地調査は全く実施できなかった。そのため、昨年度は主に現代中国におけるキリスト教やその他宗教の海外展開や、信者の国際移動、海外における華人系教会の状況に関する先行研究の整理とインターネットを通じての情報収集を中心に研究を進めた。2000年代後半以降の中国経済の成長に伴う対外開放の拡大および人々の国際移動の活発化という背景と、2016年以降共産党政権による宗教管理が厳しくなり中国国内での調査が全般的に難しくなっているという背景により、華人を含む中国人キリスト教徒のグローバルなネットワーク形成と活動の活発化に対する関心は2010年代を通じ急速に高まってきた。それにより、近年ではグローバル化に関わる中国宗教状況をめぐる優れた研究成果が数多く発表されている。令和2年度はそれら最新の先行研究を詳細に検討・整理し、最新の研究動向を把握することができた。上記の資料および文献の考察と今年度までの調査研究でのデータに基づき、令和2年度は日本現代中国学会第70回全国学術大会において「中国プロテスタント教会をめぐる2000年代以降のグローバル化の動向と影響」というタイトルで報告を行った。この内容は更なる情報と分析を加え令和3年度中に論文として投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度は、新型コロナの世界的流行による海外渡航の制限により、予定していた中国およびアメリカでの現地調査が実施できず、最新の動向に関してはインターネット上での情報収集が中心となった。加えて、習近平現政権による宗教政策は一層宗教に対する管理強化および弾圧の方向性へと進んでおり、中国人教会や中国人信者を対象とした調査はより難しくなりつつある。このような政治的状況のため、インフォーマントの安全を考慮すれば極めて慎重にならざるを得ず、メール等を通じての中国国内状況の情報の収集も難しい状況にある。上記の状況は令和3年度もしばらく続くと予想されるため、方針転換を進めている最中である。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、現在までのところ、新型コロナの感染拡大により本研究において中心となる現地調査ができなかっただけでなく、本研究が中心的な研究対象として想定していた、近年顕著になっていた中国プロテスタントをめぐるグローバル化としての現象や動きがかなり縮小してしまった状況にある。例えば本研究が特に注目する海帰キリスト教徒(海外でキリスト教徒となり中国に帰国した信者)の増加という近年極めて顕著でかつ注目されていた動きも近年のような活発さは見られない状況にある。 一方で、新型コロナの感染拡大という状況は極めて興味深い状況を呈してもおり、中国国内の宗教状況に小さからぬ変化をもたらしている。例えば感染防止は国家による宗教管理をさらに強めるきっかけとなり、また経済発展とともに多孔化してきていた宗教をめぐる国内と国外との間の境界線が再び強化される機会ともなっている。いわば現在の状況と本研究が注目する中国プロテスタントをめぐるグローバル化と政教関係をめぐる関連性は極めて密接であり、昨年来の新型コロナの世界的流行という新たな状況への考察は本研究において積極的に検討すべき切り口と位置付けられよう。したがって、今年度以降の研究の推進方策となる調査研究における新たな方針として以下二点を挙げたい。第一に調査対象を日本国内の華人を中心とした国際教会における調査に変更すること、第二に新型コロナの感染拡大という現在進行形の状況という新たな検討対象を設け、それを中国宗教をめぐるグローバル化という視点から考察を進めることである。それによって、当初計画していたのとは異なるが現在の新型コロナの感染拡大という世界的に新たな状況を加えつつ、宗教をめぐる環境のグローバル化によってプロテスタント教会をめぐり生じている政策的、社会的変化についてより有意義な考察を進めることが可能になると予想される。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大に伴う海外渡航の制限により、予定していた海外での調査複数回が実施できずその分の予算を消化できなかった。今年度は次年度使用額を使用して、日本国内での調査を拡大すると同時に、海外渡航の制限が緩和され次第中国およびアメリカでの調査を多数回実施する計画である。
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