本研究の目的は、葬儀業者のかかわる葬儀が一般的になっているジャマイカ都市部(首都キングストンおよびスパニッシュ・タウン)における死者の悼まれ方を明らかにすることである。ジャマイカで暮らす人びとの9割以上は西・中央アフリカにルーツを持ち、そのほとんどは奴隷の子孫であることから、本研究では彼らの葬送実践を主たる研究の対象とする。本研究が主に分析の対象とするのはジャマイカ黒人の貧困層を中心に流行している、派手さを重視した葬送実践である。
最終年度となる2023年度には2件の短期調査を実施した。1件目は2022年度までの調査で収集していた墓の来歴や形態に関する情報の追加および死者を描いた壁画に関する情報を収集した。この1件目の調査までで都市空間における葬送に関するエージェント(葬儀業者や病院、関連する商材店、墓地など)のおおまかな様子を確認することもできた。この調査を踏まえたうえでよりジャマイカの状況を多角的に把握するために、2件目の調査としては所属機関が所在する福岡からアクセスが良く、ジャマイカとは宗教事情の大きく異なるバンコク市内を訪れ葬送に関するエージェントの立地関係などの確認をおこなった。
2023年度までの研究期間を通じて明らかになったのは、先行研究で葬送の奢侈化とまとめられていた現象のなかで、特に視覚重視の傾向が強まっているということである。言うまでもなくデジタル機器やSNSの発展がこの傾向を後押ししており、このような変化は同時代のディアスポラ黒人の視覚表現とも密接に関わっていることから、今後の新たな検討課題としていきたい。
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