2022年度は、新型コロナウイルス感染症拡大のために実施できていなかったスラムでのフィールドワークを2度おこなった。その際、本研究が注目する中等教育から脱落した若者のみならず、広く中等教育段階の若者を対象に、参与観察及びインタビューを行うことができた。それにより、まずスラムの若者が中等教育から脱落する前後における生活世界の様相の変化を把握することができた。その上で、異なる経済的・社会的属性の友人からの影響を受けながら、外出時の行動選択や職業選択を行っている様相を捉え、国内学会や研究会にて公表した。さらに2022年度末には、こうした若者や子どもの意思に沿った権利擁護の可能性と限界について、南アジアに限定された議論にとどまらず、広く子どもの権利をめぐる議論への貢献のために、子どもの養育を学際的に検討する学会の学術誌に論文として公表した。 また研究期間全体を通して、調査地に関する資料調査により、中等教育進級者の約半数が修了試験ではなく前期中等教育の1年目で中退する傾向があることを把握した。それに対し、フィールドワークを通して、調査地のスラムでは1年目で中退せずに進級する若者や、中等教育を修了して仕事を始めている若者も多数いるといった現実の複雑さを捉えることができた。特に本研究が注目していたスラムに暮らし中等教育に進級したものの中退した若者にとって、学校経験を通して出会った経済階層やカーストの異なる友人が、外出時の行動選択や職業選択に多大な影響を与える存在であることが明らかとなった。このように中等教育段階のスラムの若者は、スラム住民のみならず、学校を通して広がる友人とのネットワークを通して、自らの置かれた現状を認識し、将来を展望していることを捉えることができた。
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