研究課題/領域番号 |
20K13294
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
八木 百合子 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (80622133)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 奉納品 / 寄進 / キリスト教 / 聖人 / 宗教性 / 物質文化 / アンデス / ペルー |
研究実績の概要 |
今年度は補足調査としてペルー南部クスコ市のD教会の奉納品に関する調査を実施した。今回調査対象に選んだD教会は、前年度までに調査をおこなった3つの教会とも歴史や文化的な関係が深く、この地域における寄進の動向を把握するうえで鍵となる教会でもある。この教会では、守護聖人とその他の聖人や聖母に対して寄進された186点のケープ(マント)を含む計520点の奉納品に関する情報を記録した。また、個々の寄進者の所在などの情報を教会関係者から聴取し、それをもとに寄進者やその家族を訪問し、寄進の背景等について聞き取りをおこなった。 これまでの調査で得られた情報からは、(1)各教会の主要な聖人に対して贈られた奉納品の特徴、(2)寄進が増加する時期、(3)寄進者の傾向、(4)奉納品に映し出された信仰的な側面、(5)寄進の背景となる社会・政治的な要因、(6)寄進を支える仕組みなどがみえてきた。(1)~(3)の情報からは、当該地域における寄進の動向を掴むことができた。この点については、2023年9月にクスコ市で開催された研究講演会で報告をおこなった。また、(4)~(6)の点からは寄進をめぐる宗教性だけでなく、社会・政治的な側面も浮かび上がってきた。特に(6)については、当該地域における寄進の実態を解明するうえで重要な問題である。今後はこの点に関連して、寄進者の親族関係以外にも、信者組織、地域社会とのつながりなどにも視野を広げてみていくことで、寄進という宗教的な贈与が現代のアンデスの人びとの間においていかなる意義を持っているのかについて考察をしていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度から始まった本研究課題は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、現地調査の時期を当初の計画より大幅にずらしてスタートした。そのため、全体の予定が1年程度後ろ倒しになっており、今年度に実施予定だった最終成果の公開に遅れをきたしている。 現状として、昨年度までに計画段階で予定していた3つの教会の調査を終え、今年度には補足調査を実施することができた。昨年度に調査したC教会(対象資料290点)と今年度に追加で調査をしたD教会(対象資料520点)についてはそれぞれの調査報告書を作成し、クスコ大司教府および各教会の関係者に提出した。これまでに整理したA教会とB教会の情報と合わせて、当該地域の寄進の実態を解明するうえで十分な奉納品のデータを揃えることができた。これに加えて、寄進者への個別の聞き取り調査も一部実施済みであるが、次年度も補足的な調査が必要な状況である。この点を補いつつ、最終年度は文献資料および教会記録に残る情報も交えながら、現代のアンデス地域における寄進に関してより詳しい分析・考察を行う予定である。 なお、今年度出席を予定していた国際会議については、組織した分科会の採択が決定していたが、諸般の事情でキャンセルせざるを得なかった。成果公開については次年度に機会を改めて実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究課題の最終年度にあたるため、データの分析と成果報告に重点を置く。これまで収集した各教会の奉納品の情報に加えて教会記録等も用いることで、寄進が人びとの宗教性の問題だけでなく、それぞれの地域の社会・政治的な側面とどのように関係しているのかを考察する。その際、特に注目したいのが、寄進者をとりまく社会関係である。これまで調査をおこなってきた教会は、いずれもクスコ市中心部に位置するが、それぞれの教区住民の構成、社会・経済的基盤などに大きな違いがみられる。古くから街に住む地元住民が大きな力を持っている教会がある一方で20世紀後半の農地改革以降に周辺の農村から移り住んだ人たちが増えている地域もある。こうした点を念頭に、今後は聖人に対する信仰上のつながりだけでなく、人びとの社会関係などもとらえつつ、現代のアンデスの人びとの間にみられる寄進の実態をさまざまな角度から分析する。また次年度は、ペルーで開催予定の国際セミナーで調査結果を報告するとともに、最終成果を論文としてもまとめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題の開始後2年間は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による海外渡航制限があり現地調査ができなかったため、前半の予算執行に遅れが生じた。調査の時期が遅れたことで、当初4年目に計画していた国際研究集会への参加が翌年にずれこむこととなった。次年度に、国際会議参加の準備をすすめ、2025年には成果公開を実施し、本研究課題を完了させる予定である。
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