研究課題/領域番号 |
20K13299
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
李 妍淑 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 客員研究員 (90635129)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 面会交流 / 子どもの権利・福祉 / 親権 / 高葛藤離婚 / 親子法(の再構築) / 子の監護・養育 / 東アジア |
研究実績の概要 |
DVや児童虐待が絶えない現代社会において、親子の面会交流のあり方と親子法制への関心は極めて高い。本研究の目的は、実務家や家族法学者が「高葛藤」と呼ぶ事案に着目し、特に中国における親子面会交流の実際の実施状況、特徴、法的課題を整理・分析した上で、比較法学の観点からそれを相対化し、DV被害者と子の利益に適う改善策の見通しを得る点にある。 研究の初年度にあたる2020年度は、中国の親子法制と面会交流の実施状況を検討した。それは、主に国内外の関連データペースや書籍の購入等を利用した文献資料(裁判資料含む)の収集と、中国国内で展開されている関連議論について丁寧に整理・分析することによって、おおむね順調に進められた。ただ、面会交流の実施状況については、実際に中国に赴き、インタビュー、実態調査を通じて文献研究を補うとともに研究の客観性を確保する予定であったが、今般の世界的パンデミックに伴い海外出張は中止せざるを得ず、当初予定していた現地での対面による意見交換や情報収集を行うことは叶わなかった。 ただ、代替策として、オンラインによる国際シンポジウムや学会への参加を試みた結果、参加者との間で一定の意見交換を行うことができた。具体的には、①中国における親子の面会交流は、非同居親の権利(同居親の義務)として位置づけられていること、②子の意思の尊重が十分に確保されていないこと、③当事者支援に法政策的課題が山積していること、④高葛藤事案における面会交流の具体策が欠如していること、⑤多様化された家族問題への法的対応が不十分であることなどに関する知見を得ることができた。 中国では民法典が2020年5月28日に採択され2021年1月1日から施行されたが、親子法制、とりわけ面会交流の改善が見られない中、本研究として高葛藤事案における面会交流問題をフォーカスした東アジアのDV対策に関する研究報告を2回行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の初年度にあたる2020年度は、中国の親子法制と面会交流の実施状況を検討することが目的であった。そのための方法としては、文献資料の収集と分析を行うほか、中国でのインタビュー、実態調査および学会参加を予定していた。文献資料の収集については、国内外の関連ツールを利用しおおむね順調に進めることができたが、中国での現地調査については、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い海外出張の中止が余儀なくされ、現地での対面による意見交換や情報収集を予定通りに行うことは不可能になった。 そこで、オンラインによる国際シンポジウムや学会などを通じて、中国側の関係者とコンタクトをとり、数回のミーティングを試みたが、時間的・空間的制限により得られる情報は、当初に予定していたものと比べて極めて限定的なものに止まらざるを得なかった。たとえば、インタビューや現地調査を通じて可能になったと思われる現状の適切な把握ができなかったことから、文献研究を補い研究の客観性を確保しようとした当初の狙いは十分に実現することができなかったと思われる。 それゆえ、世界的パンデミックの影響が本研究に与えた影響は決して少なくなかったと考えられるため、進捗状況としては、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も新型コロナウイルスの感染状況が先行き不透明であることから、研究環境が変動することも十分に予想される。そこで、年度の前半は、昨年度に引き続き、関連資料の収集と検討を中心とする文献研究を着実に進めておくことにする。とりわけ、台湾の文献を中心に扱い、これを比較対象とすることで中国の親子法制および面会交流の法的課題を浮き彫りにし、問題解決の糸口を探る。後半は、可能であれば現地に赴き実態調査を実施し成果としてまとめる作業を行う。 具体的には、台湾の親子法制に明るい実務家や研究者、豊富な経験を有する当事者支援組織を訪問し、既に台湾で実施されているソーシャルワーカによる監督付面会交流システムの全体像および有効性を確認する。また、台湾における親子法制を参照し、昨年度に確認した中国の親子法制の法的状況に再び検討を加え、高葛藤事案における面会交流の実施に必要な対策を探る。その上で、DV被害者の権利保護や虐待を受けた子の福祉に適う親子法制の条件を展望した成果物を関連する研究会や学会で報告し、そこでの意見交換を加味した論考を学会誌や大学紀要に投稿する。 仮に実態調査が依然として困難である場合、昨年度と同様、オンラインシステムを通じたシンポジウムや学会など、インタビューや打ち合わせなどを広く行うことにし、広汎な意見交換と情報収集に努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの感染拡大により現地での対面調査が実現できず、2020年度は国内外の出張が不可能になったことにより次年度使用額が生じた。そこでこの分については次年度に繰り越すことにし、2021年度の交付額と合わせて研究計画にある国内外出張のために使用する。
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