本年度においては、過年度における調査・研究を踏まえ、「執行研究 Enforcement Studies」構築のための成果の取りまとめを実施した。具体的には下記のとおりである。 まず上半期においては、これまでの理論研究の応用分野として脳神経科学分野を選び、その法執行上の論点について明らかにした。具体的には、ムーンショット(JST)目標1に属するIoB-sの年次報告シンポジウムにおける報告コメントを行い、関連分野との接続を果たすとともに、脳神経科学分野における倫理的側面について専門とする所属機関における研究者らとの連携も構築した。 次いで下半期においては、上記とも関連するELSI課題を、過年度における科学技術社会論分野の研究者との成果を発展させる形で、『科学技術社会論研究』への書評論文において公刊した。 さらに上の成果に加え、情報法・情報政策分野の研究者を招いた研究会、ブロックチェーン技術を用いた研究・事業を行う実務家・研究者を招いた研究会等を継続して開催するなど、本課題の応用分野を関連する研究者とともに模索してきた。 これらの取り組みを通じて、課題①近時の立法理学の議論から逃れてきた法の執行過程、即ち法形成-法執行-事後改善に至る一連の時間的幅を持つ法の実現プロセスの正統性確保の原理を抽出すると共に、課題②法の現実(実践)における主体面での拡散と多元化(私化・グローバル化)と、実施面での統治手法の精緻化・範囲拡大(制裁・法執行とアーキテクチャによる統治の拡大)の中で変容する「法」概念を再定位することにつき、先鞭をつけた。本研究を通じ、主たる課題とした立法理学(legisprudence)の執行的側面での補完を超えて、デジタル社会における立法-執行理学(digisprudence)が浮き彫りとなったが、それ自体が本研究の成果であり「執行研究」のさらなる発展の基礎を確立したものと考える。
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