研究実績の概要 |
昨年度は法学提要や勅法集の分析を中心としてローマの埋蔵物に関する研究を進めたが、本年度は埋蔵物に関する研究を更に推し進め、主にローマ法大全の学説集の分析を中心としてローマの法学者の埋蔵物発見による所有権取得に関する見解の分析を行った。 昨年度は法学提要において伝わるハドリアヌス帝の埋蔵物発見に関する所有権取得についての勅令を分析したが、他人の領地で発見した場合に発見者と土地の所有者との間で埋蔵物を折半するという近代法にも影響を与えた決定があるが、その中に「偶然に発見したならば」という条件が付されている。同条件について先行研究は、関連する法文として帝政期の法学者トリュフォニーヌスの法文(D.41,1,63,3)を挙げるが、そこでは現代の役権にあたるローマ法上の用益権を設定された奴隷が埋蔵物を発見した場合、その所有権は誰のものになるかが議論されている。 トリュフォニーヌスは奴隷が「何をするでもなく散歩している最中に」という一見すると「偶然に」とも読めるような条件を付すが、その意図は用益権者が奴隷に何かを捜索させるという「用務」を設定しているかが重要であり、その用務の有無により所有権が奴隷の所有者に帰属するか、あるいは用益権者に帰属するかというものであった。 「D.41,1,63,3-用益権を設定された奴隷が見つけた埋蔵物の帰属について」と題して日本ローマ法研究会において同法文についての研究報告を行い、史料の読解を中心として参加者から意見を伺った。その結果として同法文が先行研究が位置づけるようなものではなく、個別具体的な事例の中でローマの法学者が妥当な解決を試みたこと、また先行研究のような理解はおそらく中世の注釈学派がハドリアヌスの決定と同法文を結び付けたことに起因することが明らかになった。
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