研究課題/領域番号 |
20K13318
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
田中 晶国 九州大学, 法学研究院, 准教授 (50782950)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 推計課税 / 実額課税 / 事実上の推定 / 補充的代替手段説 / 所得税法156条 / 一応の立証 |
研究実績の概要 |
本年度は、主として、我が国、租税争訟制度における立証対象の確認と推計課税に関する議論の整理検討を行った。推計課税の本質については、別世界説・補充的代替手段説・証明度軽減説・法律上推定説などがあるが、各見解にはそれぞれ難点がある。別世界説・補充的代替手段説、証明度軽減説、法律上の事実推定説は、所得税法156条の効果としてそれぞれの見解を根拠づけるために、①所得税法156条の前身である旧所得税法46条の2において最判昭和39年11月13日訟月11巻2号312頁の示した理解とそぐわないこと、②消費税等の推計課税を認める規定のない租税について推計課税が認められる根拠の説明に窮する点が指摘できる。 他方、事実上推定説・一応の立証説に対しても以下の疑問点がある。事実上推定説は、推計課税の立証については、「一般に、被告(課税庁)の主張する推計方法に一応の合理性が認められる場合には、特段の反証がされない限り、右の推計方法によって算出される課税標準等の額が真実の課税標準等の額に合致するものと事実上の推定をすることができる」と理解する裁判例に賛成する。一般的な理解では主要事実の認定には「高度の蓋然性」を必要とすると理解されていることからして、「真実の所得金額と合致する」単なる「蓋然性」で足りるとする理解は、通常求められる証明度を軽減している。とすれば、証明度軽減の根拠をどこに求めるかが課題であり、仮に、その根拠を所得税法156条に求めるならば、上記批判が等しく妥当する。 このように、いずれの見解も、現在の裁判例との整合性を保とうとすると論理的に無理がある状況にある。経験則をどのように評価するかが重要な課題であることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究により、推計課税の立証の程度について、現在ある説明では、いずれも不十分ないし理論的な難点があることが確認された。この現在までの進捗を基礎にして考察を進めると、本研究の課題遂行のための重要な観点として摘示していた民事訴訟法上の立証軽減に係る理論を参照することが、やはり重要となるであろう。課税庁としては、課税処分を行う段階において、裁判所が依拠する証拠法の下で証拠資料とできることを見越した資料収集と事実認定が必要である。研究課題において示した方向性と現在の研究結果は概ね一致しており、研究課題は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
既述のとおり、本研究の課題遂行のための重要な観点として摘示していた民事訴訟法上の立証軽減に係る理論を参照することが、本研究の進展について重要な示唆を与えるものとなることが期待できる。立証軽減は民事訴訟法上の法理論であるために、行政訴訟、特に租税訴訟に対するその援用に関しての研究はほぼない。したがって、まずは、我が国における民事訴訟法学における証明妨害の現在時点をまず正確に把握することを今後の研究の推進方策とする。その上で、民事訴訟法上の証明妨害の法理論を行政訴訟に援用することが可能かにつき検討を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は書籍の購入等が想定よりも少なく、またコロナの影響で旅費が生じなかったので余裕が生じたが、次年度以降に書籍購入などに利用していく予定である。
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