本研究は、テロ事件に対処するための、国による個人情報収集・管理・利用の取扱いにつき、国の情報機関の組織および情報共有の手続に焦点を当てて、それらの組織・手続に関する法的規律を研究することが目的である。最終年度である令和4年度は、過年度の研究成果の整理と統合を行うことを予定していた。過年度は、①情報機関の諸制度の分析、②民間事業者と警察との連携のあり方を軸として、③ドイツの情報機関による情報収集の制度分析を中心とした調査を行いつつ、④連邦憲法裁判所による情報機関の統制について、議会統制が縮減されている傾向を析出してきた。令和4年度では、それらの調査を基に、国による秘密裡の情報収集を憲法上統制する方法について検討した。ドイツの情報機関の組織間関係を意識しつつ、ドイツにおける情報機関による秘密裡の情報収集に関する立法の規律として、憲法が何を要請し、その憲法解釈を連邦憲法裁判所がいかに行っているのかを分析した。ドイツ基本法は、秘密裡の情報収集に関する立法には、法律の明確性・基本権介入の比例性・手続措置の比例性といった限界が設けられ、さらに、立法上、公開の義務づけや記録作成の義務づけなど措置がとられている。しかし、こうした原則的な規律の裏側で、抜け道的に非公開とした情報収集が許容される仕組みも用意された。とくに情報を収集するために内通者を利用する場合に、内通者情報を秘密とする取扱いが、内通者の生命・身体の保護を目的として、正当化される。この点、ドイツでは議会調査委員会による議会統制権の可能性がかねてから議論になっていたが、近年の連邦憲法裁判所は、この統制権の限界を限定する。こうしたドイツの悩ましい揺れ動きを見るなかで、日本においても、議会統制権の拡充を議論する課題を析出した。
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